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第87話 残念ながら妹が池袋で薄い本を買っている

 俺たちはせっかく出掛けたのだからと、パトロールを兼ねて遊びに行く運びとなった。こういう時だって息抜きは必要だもんな。  日本刀には透明化を掛ければ問題ないだろう。 「行くべきは……どこだ? いや! オタクという街に行ってみたい!」  なぜかハイテンションのアルテッドは秋葉原か池袋をご所望だ。 「秋葉原の方が近いですけどーアルは池袋ですかね。甘い物はどちらかと言うと女性の街に多いので」 「確かに池袋ってなんかおしゃれな雰囲気のカフェがありますよね」  高くて入った事ないけど! というか女性客ばかりであまり居心地がよくない。  室内アミューズメントパークで好きなアニメのコラボがあると行ったりしてるけどさーやっぱ女性オタクの街だよな。女性ばかりの店内に男がいると「男?」みたいな顔をする女性も居るんだ。  俺と隼人さんが2人でふらつくには難易度が高い街だぞ? いや、仕方がないか……。    池袋駅の地下から階段を上がれば、見慣れた街だ。少し歩けば乙女ロードがあったり、ゲーセン街があったりととても賑やかである。   「フツメンは受けだと思う……」 「攻めはスパダリ……」  なんかすれ違う女性たちから聞こえてはいけない会話が聞こえてくる。  超絶ハイスペックな隼人さんを前にして、受け攻め談議を我慢できない気持ちは分かるぞ。だが、ふつーにマナー違反だし! いくら女性オタクの街で男が2人デートしているように見えても、ダメだよ! 受け攻めを語ったら!  アルテッドはパンプスでパタパタ歩き、ひょこっとクレーンゲームを覗く。   「隼人、このぬいぐるみが入った大きな箱は何だ!」 「クレーンゲームと言って、この爪でぬいぐるみを掴んでこの穴に入れられれば勝利です。景品として、このぬいぐるみがもらえます」 「こっちのお菓子もか?」 「ええ、遊んでみますか?」 「やりたい!」  アルテッドは両替した100円玉をたくさんもらってクレーンゲームで遊ぶ、なかなか落ちそうで落ちないお菓子にヤキモキしながらも楽しそうだ。2000円で小さなチョコをゲットしアルは嬉しそうに鞄へしまった。  アルテッドは女装のままだし、鞄も女物なんだよなー。いや、アルが気にしていないならいいんだけども。  いやいや! それより、200円で売られているお菓子に2000円を使っても笑顔の隼人さんすごいな! 俺ならもったいないからやめろよとか言って彼女に振られそう……。  俺はこんなんだから童貞なんだよなー! 身に染みる教訓だぜっ! 「この店は装いが違いますね」 「コラボカフェは予約制が一般的ですから、気にしなくていいですよ。殿下」 「こらぼかふぇ?」    首を傾げるグレンシアにカラオケを指差すアルテッド。   「おい、この店もこらぼかふぇというものか? 何やら30分いくら等と書いてあるが」 「カラオケは入れますけど。コースター引いてもキャラが分からないと面白くないですからねえ」 「謎の文化があるようだな……」    グレンシアとアルテッドはオタク街の文化に思いっ切り首を傾げている。   「乙女ロードも歩いてみますかー」  なんというか、乙女ロードの店は可愛いグッズまみれだ。動画配信サイトのアイドルグッズや、ゲームやアニメのキャラグッズがずらっと並ぶ。  女性客ばかりの店内、肩身が狭く通路を譲りまくる俺。そもそもオタクの店は通路が狭い。  しかし、お前らなんかわざと隼人さんにぶつかって体にふれてない?  俺の事は避けるのにさ、これは俺の僻みなのか? 僻みなのか!?  もう、そういうアミューズメントですかってくらい楽しそうに隼人さんの隣をきゃっきゃうふふと通る女性たち。隼人さんも何気に楽しそうだ。 「いった!」  隼人さんがアルテッドに蹴られた。男に対して、モテモテで調子に乗るなと言う方が無理な話だぞ? アル……。    店から出て歩いていると、グレンシアが警戒を始める。   「この隠されているような地下へ続く階段は何ですか? 密輸品や薬物……武器……。闇ギルドのカモフラージュのバーがあったりしないですよね?」  グレンシアが心配する怪しい店……。おそらく、只ならぬ隠された気配を感じ取っているだけだ。そう、ここは。  ――中古同人誌の店!  エロ本がたくさん売っており、腐った人類が意気揚々と買い物をする場所だ。 「殿下ぁ、ジュリア様の行きつけの店と変わらない場所なのでご安心くださいー」 「では、ここには淫らな……いえ、ふしだらな本が売られているのですか?」 「いえ、あくまで美しい同性愛が綴られているだけですよー! ジュリア様の名誉に傷がつく発言はお控えくださいねー?」 「隼人はジュリアの事になると怖いです……」  笑顔でグレンシアを黙らせる隼人さんは店に入るようで階段を下った。 「え? ここに入るんですか? さすがに用事ないんですけど……」 「雰囲気だけでも観光になりますよ。少しですがグッズなんかもあるんですよ」  何で詳しいのかは突っ込まないでおこう。どうせ彼女とデートに来た事があるんだろうし、口に出せばアルの地雷を踏んでしまうからな……!  店内は落ち着いている雰囲気で図書館みたいだ。静かに素早く表紙を確認する女性たち。  女性たちが放つ謎の気迫に俺はビビり散らかしているが、ロリィタ姿の金髪美人に目が留まった。俺は彼女を知っている気が……?  俺は慌てて、彼女にグレンシアとアルテッドが見える様にスキルの調整をした。   「お! お兄様っ!」 「ジュリア!?」  ジュリアは飛び込むようにしてグレンシアに抱き着いた。 「お兄様ー! 嬉しい……」 「まさかこちらの世界で再会できるなんて! ジュリア、異世界で心細かったのですね」  まさか、ジュリアがいるなんて……。    あっちの世界の住人がこちらへ? どういう事かは分からない。でも、兄妹の再会に立ち会う事が出来るのは、なんか良いな。温かい気持ちになる。   「お兄様が薄い本を売るお店に来て下さるなんて! 嬉しいです!」 「いえ、好き好んで入ったわけではなく……」 「お兄様にはスパダリ×フツメンがおすすめですわ」 「妹のすすめで淫らな本は読みません! いえ、そもそも私にそんな変態的な趣味は無く、その様な本は穢れています!」 「そういうお兄様を沼に落とす事が私の使命です!」  ジュリアって腐女子だったのかー! なんか今までの謎が解けたぞ! 「ジュリア様、ご所望の同人誌はございましたか? 支払いは私、エルドにお任せください」 「本当に!? よかったわ! ジアンの能無しがお小遣い2000円しかくれないんだもの」  ジアン!? 「今、ジアンって言った!? ジュリアはジアンと暮らしてるの?」 「ええ、お風呂に入っていたら気付けばジアンのボロアパートに」 「何もされませんでしたか!?」  グレンシアの心配をジュリアは鼻で笑う。 「あんな意気地、甲斐性も皆無の童貞にぃ女を押し倒す度胸がある訳ありませんわぁー!」  うん……なぜだろう、俺の胸が……すごく痛んだよ。  その言い様は、ジアンが不憫過ぎて泣く! ゴブリンとして女性を抱いてもノーカン? 口説いた女性とえっちできない男は皆童貞だというのか!? それはそうだな、うん! わかるぞっ! 「さすが、ジュリア様!」 「エルド、この店のスパダリ攻め作品を買い占めなさい!」 「はっ!」  なぜ、隼人さんがそんな生き生きと!?  お姫様に仕えるってまあ男の夢だからかなぁ……。ま、まさか、ジュリアに気があるんじゃ? 「隼人にとって姫様は特別なんだ」   「アル?」 「嫉妬なんてしないから気にしなくていい」 「そうか……ならいいや」  よくわからないが、人には言えない事情があるんだろうな。  生き生きと10万円分の同人誌の支払いをした隼人さんと俺たちは、ジアンの家に行く事となった――。

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