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第89話 それぞれの仕事が決まったようだ

 アルテッドはノートパソコンと向き合いひたすらに相手の心を読んで、占いの依頼をこなす。  スキルマーケットでは既に本物だ! 逸材現れた的なレビューがついて評判を呼んでいる。何より鑑定が高速なので、1日50人でもいけるくらいのスピード感だと言う。  1人3000円でも1日の売り上げは15万円だと思うとすごすぎるよなー。  ジュリアはBLの小説を書いている。無料サイトに載せたり、販売サイトで売ってみたいらしい。若さ故かすぐにブラインドタッチをマスターしてすごいスピードで小説を打ち込んでいる。  何らかのスキル効果なのか人並外れた執筆速度。1時間で5000文字以上打ち込めるようで、1日10時間書けば、2日で単行本1本だ。  俺にはよくわからないけど、書籍化でも決まれば2日で書いたものが数十万~数百万円になるらしい。  雪葉ちゃんは皆が仕事で暇な時間、ひたすらに床や窓を磨いている。お掃除ロボットと一緒に頑張っている姿は可愛い。  だがなぜ床と窓を極限まで綺麗にしているのか!?  俺と隼人さんはプログラム制作……しないで作戦会議をした。  仮説を確かめるために、ゴブリンの繁栄のプログラムを探している。海外の掲示板にもなく、どこにもない。  隼人さんのパソコンにも跡形もない以上、作り直すという選択肢しかないのだ。  俺たちはあのあり得ないプログラムをどうしたら再構築できるか模索している。あの時と同じ指示を書いても同じに動かない、そう隼人さんは嘆いていた。  まるで本当に、人知を超えた力が働いていたのではと……。それだけが、浮き彫りになるばかりだった。  そして、グレンシアは――。    ――『グレンシアSIDE』 「受け取れませんからね!」 「神様! どうか、お受け取り下さい!」  隼人の実家に呼ばれたので行ってみれば、林原さんという老人が5億円の小切手とやらを私に押し付けようとする!  私は確かに仕事を探していた。だが、化け物の凶行から女性を救うのは当然であり、報酬は必要ないと申し上げているのだが……。 「受け取れません! 仕事は必要です。ですが、当然の事をして大金を受け取るというのは私の正義に反します。あの化け物共は神世界の生物でした。神として討伐するのは当然なのです」 「ですが」 「受け取れません!」    私の毅然とした態度が伝わっているのか、林原のおじいさんは静かに俯く。 「……捨ててくださっても、破いて下さってもいい。お金を全て燃やされたっていい。私は神様に感謝の形を受け取ってもらいたい。命より大切な孫娘が無事に帰ってきて、どれだけ……どれほど感謝したか! 他の……ほかの……っ他の女性の状態を神様もご覧になったのでしょう!?」 「そ、それは……」  林原のおじいさんは見えない私の手を探り当てて握ると、小切手を手に握らせてきた。ぽたぽたと流れる涙に私はその手を振り払えない。  他の被害女性を見て、どれだけゾッとしただろうか。あと少し遅ければ自分の孫娘が同じ目に遭っていた。その気持ちを思えばこれ以上は断れない……。だが、このお金は……。このお金で直哉さんを幸せに出来るのだろうか? 「しかし、私には真っ当にお金を稼いで愛する方を幸せにするという目的があるのです」 「神様、お金に色はありません」 「色……?」 「お金に良い悪いは無い。ですがこの5億に色があるとするならば、感謝一色でございます」 「!」  簡単に稼いだ事への申し訳なさで、私は失礼な言動をとっていたのかもしれない。  涙を流しながら、感謝を伝えて下さる方の気持ちを拒否するなんて……! 「私の勉強不足で失礼を致しました……貴方様の感謝のお気持ち受け取らせて頂きます」  私は頭を下げた。 「私には身分証がないので、隼人しか換金できないようですね」  帰り道、小切手を手にふらふらと歩いている。あの老人の流した涙は、一足遅ければ悲しみの涙だった。  この世界の人間は弱い。ゴブリンに遭遇して雇い主を守れる傭兵すらいない。お金があろうと無くとも、身を守れない。ゴブリンは優秀なメスを好む、つまりお金持ちほど狙われるリスクは上がるのだ。 「どれだけのゴブリンが生息しているか私の力では全把握出来ません……近くにゴブリンがいないか、確認しながらパトロールするくらいで……」 「きゃあっ!」 「ご、ごめんなさい! 前を見ていませんでした!」 「え? 誰もいない?」 「ああ、えっと……」 「あの、私。水樹って言います」 「私はグレンシア、この地域の神です」 「やっぱり!」 「私に御用なのでしょうか?」 「お願いがあります」 「?」  彼女は女子学生だろうか? 思い詰めた顔をしている。丈の短いスカートを握り締めて、一生懸命に言葉を選んでいる様子だ。   「私、好きな先輩がいて! 告白したいんです!」 「え……ええ、はあ。それでなぜ私に?」 「一緒に来て、神様の力で応援して下さい!」 「ええ!? いや、私には縁結びの力は無くて……」 「なんでもいいんです! 神頼みしたいんですううう!」  なぜか半強制的に告白に付き添う事となった私は大学という場所へ来た。先輩の女子学生を探しているのだが、見つからない。同性同士では結婚できないと聞いていたが、意外とよくある事なのだろう。  そういえば、場所を移動したのに探知魔法を使っていない。  まさか、ここまで人の多い場所に居る訳はないだろうとは思いつつも、探知魔法を展開させる。 「……!」  私はゴブリンの気配のするドアを開けた。 「か、神様! そこ女子更衣室!」  裸の女性がいる場所に乗り込んで申し訳ないが、緊急事態だ。  いた、天井だ!  このゴブリンは女性を襲う事が目的ではないのかもしれない。  隠れて女性の裸を見るという破廉恥な個体がいるのは別の意味で許し難い!  私は日本刀を抜こうとして、ここでは女性を傷つける可能性に思い至った。強化魔法を使い、ゴブリンに殴りかかろうとするが、素早い! 速さが高い種か!  暴れまわるゴブリンに女性たちは悲鳴を上げて逃げ惑う。女性たちがいる事で動きが制限されゴブリンに追いつけない。女性は恐怖で動けないようだし、困った。  何を思ったのだろうか? ゴブリンが女性の下着を手に取った。私に投げつけてくるのは挑発だ、腹立たしい! さらに女性のショーツを頭から被って踊るように女性にアピールする始末。  ――このゴブリン、頭悪そう!  戦意を挫かれながらも、私はゴブリンを追い掛ける。  奴が廊下に出た。しかし、廊下は廊下で人がおり、ゴブリンは行く手全てのスカートをめくり上げる。ショーツを被ったまま女学生に投げキッスをするという、謎の行動をして……いる?  もはや、知性が高すぎるのか、頭悪すぎるのか……どっちだ!?  いやまて、これは私を混乱させ、逃げる隙を作ろうという作戦かもしれない。それは許しません! 「ひひひ、オンナノコナラヨカッタナオマエ」  しゃ、喋った……!?  ゴブリンが……? ジアン以外の喋るゴブリンなんて、いる訳が……。  しまった! 唖然としている間に、ゴブリンを見失ってしまった! 「ゴブリンは知性が高すぎると、頭の悪い種になるのですね。危険種です、覚えておきましょう……知性の高い額に傷のあるゴブリン、必ず討伐しますっ……!」        その後、女子学生が見事に振られてしまい、私は立つ瀬もなく帰宅しようとした。 「指輪……」  街で見かけたのはジュエリーショップ。  私が納得していないという意味で、直哉さんへ贈った婚約指輪とプロポーズは中途半端だった。  やり直したい。  このお金で、最高のタイミングを見つけて……いつか――。    そんな甘い思考をしたまま玄関を開ける。  迎えに来てくれた直哉さんの姿に気持ちも和み頬が緩んだ。 「おかえり、グレンシア」   「直哉さん、これ! もうお金の心配はいりませんから」 「もう! 冗談で5億円の小切手とか! こんな小道具使うんだからなー! グレンシアもこっちに馴染んできたなー」  な……!?  なっ!? なっ、直哉さんが私の事を信じてくれない!?  衝撃の展開に私は涙目ですよ……!?

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