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第91話 お姫様にしてくれる貴方が好きよ②
不思議な力がこの世界にある事が確定した。あの世界を起点とする仮説は……神様にしか行き着かなくなってしまった。
全てが神力であったと……安直ではあるが他に説明のしようがない。
魔法の力も、転移も、ゴブリンもすべて? なぜ? 神様がその様な事をなさる必要がある? 神様を信仰してきた者としては、神が人間に試練を与えているという考え方しかできないな。
「ジュリア様、とりあえず帰りましょうか……ん!?」
さっきまで隣を歩いていたはずのジュリアがいない! 魔法で探せば、近くの森林公園に入って行ったらしい。今度は禁足地ではないが、あの小娘は本当に反省したのか!? と、少々怒りが湧いてきた。
「ジュリア様!」
「みて、エルド、なんかいた!」
「ぎゃあああああっ!?」
公園で佇むジュリアが生首を持っていると思えば、マネキンだ。
心臓に悪すぎるからこんな所に生首放置するな! 誰だ、公園にマネキンを不法投棄する不届き者は!
ぽたっ!
マネキンから、血が垂れた……?
「エルド、これがお化けってやつなの?」
「ジュリア様それ……ほ、本物……」
「ギギギギギギ」
「!?」
腐臭を放つ緑色の小鬼。ゴブリンが持つ、男性の遺体。首がない。
「ぎゃああああっ!? うわっ!? お前それ日本ではアウトだからな!? 異世界でもダメだけど!」
なぜかゴブリンに話しかけながら、俺は日本刀を抜いた。
ジュリアに危険が及ぶ前にゴブリンを討伐しなくては! 彼女にバリアを張ろうとしたが、生首だけが置いてあり……ひ、姫様がいない!?
「ジュリアあああっ!」
怒りのままゴブリンを切断し、俺はジュリアの元へ駆ける。あのお姫様はじっとしていられないのか!?
彼女はまだ、好奇心旺盛な子供。日本においても18歳など、成人とは名ばかりだ。
私からすればジュリアはとても幼く手を離せば危険で、ずっと手を繋いでいたくなる。そこまでの幼子ではない。わかってはいる。
だが、とても危なっかしい。彼女を妹とダブらせている俺にとって、ジュリアを失う事は耐えがたい事だ。心配が尽きない……! 俺にとっては7歳の妹と同じなんだ――!
「ひ、ひまり!?」
道にしゃがみ込み蹲っているジュリアを間違えて妹の名で呼んだ。
「!」
ジュリアは驚いた顔をする。
「ジュリア様、どうなされました!?」
「お腹空いた……」
「近くの店で食事を致しましょうか」
俺はジュリアに手を差し出した。その手を取って、ジュリアは疑問を口にする。
「今のがエルドの……想っている女性の名なの?」
「……」
「聞かせて?」
「いえ……」
「私と似ているの?」
「……とても」
「そう……」
勘違いをされているだろう。しかし、妹の事を隠し生きて来た俺には……。
妹への想いを打ち明ける事など出来はしなかった。
食事も終え帰路。隣を歩く元気のないジュリアの事が心配になる。
「ジュリア様、先ほどのパンケーキは美味しかったですねえ。アルを連れて行きたいです。次は皆で行きましょうか」
「……」
「ジュリア様はー……心霊動画がお好きなんですか?」
「……」
無視をされるが、仕方がない。好きだが想いを遂げられなかった女性の身代わりにされていると勘違いしておいでだ。
気のある素振りはしないようにして来たものの、他の男よりも近くで尽くしていた自覚はある。
俺の行動は誰から見たってジュリア様をお慕いしているようにしか映らない。その上、先ほどの会話だ。彼女は俺を警戒しているのかもしれない……。
「ジュリア様……んっ!?」
ふわっとした良い香り、唇にやわらかな感触。
「私は好きよ」
「!?」
「抱いてもいいわ」
「いえ、無理ですっ!」
あらぬ方向へ行きそうな展開だ。俺はさすがに焦った。キスされた唇は何というか、嬉しいんだけども違う! こういうのはよくないぞと言いたくなる。
ひまりは妹だから、俺が守らなければという使命感が強い。ジュリアとひまりは俺にとって同じだ。ずっと重ねてきた。何とか妹である事を伝えなくては……!
「俺にとってジュリア様は……妹のような存在なんです」
「どうして?」
「えっと、似ていまして……」
「ひまりって妹なの?」
「ええ」
「……」
「ジュリア様?」
「ばっか! エルドのばかっ!」
どすっ! と俺の腹を殴ったジュリア。その顔は笑っている。無邪気な様子に安堵した。
「……じゃあ、いつかお兄ちゃんとして私を攫ってくれる?」
「どういう意味ですか……?」
「冗談よっ!」
バシンッ! と俺の背中を叩いて、逃げるように走り出す笑顔の彼女を追い掛けた――。
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