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第92話 デートしたいなって思っただけなのに!?

 ◇  俺の部屋、グレンシアと2人ベッドに寝転がって甘い時間を過ごしている。   「グレンシア、俺の事……」 「愛しています」 「俺も」 「……」  何故か突然、思い詰めるように黙るグレンシア。   「?」 「直哉さん、こんな素敵な時間を過ごしておいて、心が狭いと思うでしょうが」 「どうした? グレンシア」 「直哉さんは毎日、隼人とばかり一緒に居ます……」 「仕事だからな?」  嫉妬かあ!  よく考えるとグレンシアはすごく嫉妬深い。  それなのに隼人さんと2人きりの仕事を許すなんて、相当無理をしているんだ。 「無理させて、ごめんな?」 「もう働く必要は無いので、私の傍に居て下さい」  グレンシアは俺の頭を優しく撫でて、キスをした。 「それは無理だよ」 「私が持って来た5億円……税金を払っても充分残ると隼人が言っていましたよ?」 「だーかーら! もう、本気にしてないからな? 冗談もしつこいと面白くないぞ!」 「ど、どうして信じてくれないんですか!?」  そう言われても、5億円って冗談以外に受け取りようがないし、グレンシアが我が儘言っているように聞こえちゃうというか……! いや、我儘は可愛いんだけど、信じろと言われても困るぞ? 「もうそのお金はいいからさ、話すのなら現実の話をしよう」 「は……はい、直哉さんがそう言うのなら……直哉さんの意思を尊重します……」  不満というより悲し気なグレンシアだったが、気持ちを切り替えてくれたようだ。 「で、では! せめて2人でデートに行きたいです! ネットで検索して、旅行プランを考えたんですよ!」 「りょ、旅行って高いんじゃないか?」 「お金は私が支払います」 「ま、またデイトレードで……」 「いえ、人助けのお礼ですよ」 「……そっか!」  よくわからないが……? グレンシアは強いし、人を助けてお礼を貰う事もまああるのかな! それならグレンシアが真っ当に得たお金ともいえるし、甘えちゃおうかな。 「グレンシア、どこに行くんだ?」 「ホテルに滞在して、遊園地で遊びます。近場に有名な心霊スポットもあるので、行ってみましょう」 「いや、まて!? 心霊スポット!?」  聞き間違いか!? 最近、ジュリアと一緒にグレンシアが心霊動画見て遊んでるなーと思ってはいたが、ダメだぞそんな遊びしたら!  俺なんて、心霊動画見るとなぜかパソコンとヘッドフォンが急に電源落ちたり変な挙動になったりしてさ、昔からなんか起こるタイプなんだよ!   「その遊園地では子供が行方不明になるという都市伝説があって……いえ、真面目な話、毎日入場者数と退場者数が合わないそうで……最近では数十人単位で誤差が……少し気になっています」 「心霊スポットも?」 「数日前からネット上で、踏み入ると戻って来られない……と」 「それって……」  ゴブリンか? いや、わからないが……グレンシアは可能性を示唆しているのだろう。   「素敵なデート最優先ですがっ! 気になる場所へも行きたいと思っています。捨て置けない噂は確認しておきたいのです」 「じゃあ、隼人さんとアルも誘おうか」 「!? な、なぜ隼人を誘う必要があるのですか!?」 「いや、子供が行方不明になる遊園地とか、隼人さん放ってはおけないだろうし、あ。もうみんなで行くかー! そうなると旅費は隼人さん持ちって話になるかな? グレンシア?」  悲しそうな顔で俯いて、拗ねるか悩んでいる王子様の様子に口元が綻びそうになる。   「……わかりました。ですが、行動は私と直哉さん2人きりですっ!」 「わ、わかったよー……ふふっ、グレンシア可愛いな」 「直哉さん」  俺を抱きしめて、頬にキスをしてくる。俺の事が大好きな王子様は本当に可愛くて仕方がない。    俺たちはリビングに集まって、旅行の話し合いを始めた。   「そのような危険な場所へジュリア様を同行させられません!」  いや、話して早々、隼人さんに怒られたよ!? 「雪葉はジュリア様の護衛に残って下さい」 「我に任せるのだっ! 我は強いぞっ!」  ジュリアと雪葉ちゃんをお留守番させるらしい。それは妥当かなー。確かに女の子を連れて行く場所じゃないし、雪葉ちゃんが護衛なら安心だ。可愛いけど、そこら辺のゴブリンならおそらく瞬殺……元ゴブリンの長だからなぁ!  なにより雪葉ちゃんはジュリアと2人でもえっちな事はできないだろう。童貞理由が、可愛すぎて男として見てもらえない&男らしく迫れない。って感じだからなあー。ある意味で童貞卒業難易度高いよ、うん。  だが、何より! 犯罪行為はしないという約束をジアンは破らない。 「あるじぃ! 我を信じてくれているだろ、わかるぞ!」 「ああ、頼んだぞ」 「任せるのだあ!」  そんな感じで、速攻部屋を押さえた隼人さんは2日後でスケジュールを組んでくれた。  電車の時間、ホテルのチェックイン、遊園地のチケット、心霊スポットまでの移動手段。仕事ができる人は何をやらせても早くて完璧だ。スマホへ送られてきたスケジュールに俺は感動している。 「グレンシア、買い物に行くぞ!」 「! はいっ」  あっちの世界とあべこべなのをしてみたかったんだ。今度は俺が2万円を渡して、王子様が買い物をする。グレンシアも2万円という俺の意図を分かっている様子で、タブレットでコスパとかファストファッションと検索している。  俺が渡した2万円を大切に使う気、満々なのが可愛い。  夏服だし、ファストファッションだとお金はたいしてかからない。鞄も身の回りの物も全部、隼人さんにもらっているから必要なのは服とおやつくらいかな。  服は隼人さんが貸してくれるけど、お父さんのおさがり状態だしグレンシアはあまり嬉しくないだろう。いい機会だから俺から服をプレゼントしたいんだ。  ……ふふっ、お金は大丈夫! 来月のお給料はいい額が貰えそうだからなぁ! 「こ、この! 古着屋という店に行きたいです!」 「古着屋?」 「私は王子なので、服はオーダーメイドしか許されませんでした。ですが、隼人の服を着てみると面白くて、古着という文化に興味があるのです!」 「古着ってぼろいぞ? デザインが古かったりして、あんま格好良くないかも」 「……み、見るだけでも!」 「わかった。行こうか」 「はい!」  俺は古本や玩具とかも置いてある、総合型みたいな中古ショップへ来た。古着コーナーもだいぶ充実しているし、掘り出しものだってあるかもしれない。が、俺は試着室から出て来たグレンシアを見て驚愕する。  マスコットが描かれたTシャツにダメージジーンズというダサさ満点の服装なのに、なんだこれは!?  めちゃくちゃカッコいい……だと!?  このままパリの街歩いてもモデルだ! って感じになるレベルなのなぜ!?  俺が着たら「頭打った?」って聞かれるレベルのダサさなのに……。  は……敗北した!  イケメンは、なに着てもイケメン! イケメンに服は関係ないんだよ! 美しい本体しか認識されないのっ! 「似合いますか?」 「うん、すごくカッコいいけど、ご当地キャラが描かれたTシャツ着てる彼氏は嫌だ。無地にしてくれっ!」 「これ、可愛いと思って……」 「ごめん、梨の妖精は無理だ。梨汁吹き出しているし」  なんとかキャラものは買うのを止めさせ、仮に姿が見えても浮かない服装にしてもらった。 「1着1000円……」  結局は古着もカジュアルなビジネススタイルにしたが、グレンシアが選ぶものは安くて上下3セットで6000円だった。俺がお金にうるさく言ったから、グレンシア……気を遣っているのか!?  俺はグレンシアの財布から古着の支払いをする。 「あれ? グレンシア?」  どこかへ行ってしまったグレンシアを探す。店内を歩けば、ブランドの財布を見ている。 「この未使用品と言うのが、1万2000円で買えるそうです」 「これ! 掘り出しものだな。定価だと3万8000円するんだよ」  偶然にも2年位前、欲しいなと思ってオンラインショップを眺めて、結局買わなかった財布だった。 「! これを直哉さんに贈りたいです。古着のお礼に」 「ええ? ……ふふっ、ありがとう!」  なんかもうグレンシアらしさが愛おしいから甘えてしまおう。  俺が素直にお礼を言ったからか、グレンシアはちょっと驚いた顔をした後、嬉しそうに抱き寄せて来た。髪にちゅっとキスをされて、耳元に吐息がかかる。 「嬉しいです」 「グレンシア」 「こんなにも直哉さんが私に心を開いてくれている事が……私は幸せです」 「うん……」 「あの、直哉さん」  甘い空気が変わった……? 思い詰めたように俺の名を呼ぶから何かと思って、彼の顔を見た。   「うん?」 「余ったお金で梨の妖精のTシャツを買いたいです……」 「はああああ!?」 「へ、部屋着にしますからっ! ね、寝間着に欲しいんですっ!」 「……帰るぞ」 「な、直哉さんっ! お、置いて行かないで下さいっ!」  何とか手に入れた梨の妖精のTシャツを幼馴染に自慢する王子様なのだった――。

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