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第3話 変化の足音
「そうだったのか」
納得した様子で呟くルーカス。
「え」
ふらふらと近づいて来た彼はぎゅっ、と俺の手を握った。
剣ダコだらけの節くれだった手を、繊細な長い指が包み込む。
きゃあ!と盛り上がる女性陣二人。
遠い目をするライアン。
「正直、アレクに嫌われていることはわかってた。
でも、回復術師として無能な俺を疎むのは当然だし……今回のことも、実はそこまで驚かなかったんだ。」
話しながら指をなぞられて鳥肌が立つ。内容が入ってこないからやめてください……。
「でも違った。
……そう。アレクはいつだって他のやつとは違う。」
「?それはどういう……」
「アレクさん!ごめんなさい!」
アリステアの声に二人して飛び上がる。完全に周りの存在を忘れていた。
「え!?な、なななな何が!?」
「私はあなたを誤解していました!」
胸の前で手を組み、瞳を潤ませるアリステア。美少女だから無駄に絵になる。
「私は!あなたがルーカスさんにくだらない敵対心を抱いていると思っていたのです!
同年代で回復術師としての能力も高い彼が自分より目立つのが許せない。だから冷遇し、このパーティーから排除しようとしたのだと……!」
「グッ」
合ってます。その通りです。
「でも、それは私の誤解でした。
その根底にはルーカスさんと本当の意味での仲間になりたいという熱い想いがあったのですね!」
「ふん。人騒がせな奴だ。……青いな。」
「アレク!そういうことだったの!」
アリステアの超解釈はパーティーメンバーに衝撃をもたらした。
そして絶望的と思われた話し合いは生温かい空気に包まれて終わったのだった。良かったけどなんか釈然としない。
そんなことがあった次の日。
ーーーーーー
プチ、プチ。
森の奥のとある場所で、俺は一人寂しく薬草を摘んでいた。
ーーーーーー
ルーカス追放未遂事件の翌日。
今日は勇者一行にとっては珍しく、仕事依頼が一件もない日だ。
朝食の時間にそれとなく皆の予定を聞いてみる。
「私とアリステアは街に出来たカフェに行ってくるわ」
小さくちぎったパンを口に運びながらマリアが答えた。
「内装が可愛くてケーキがどれも美味しいって若い子に人気なんですよ!」
とアリステアが笑顔で補足する。
原作ではそんなに絡みが無かったような気がするのだが、この二人、地味に仲が良い。
「へえ、いいね。ライアンは?」
「俺は釣りに行ってくる」
ブラックコーヒーをぐい、と飲み干したライアンが言った。
「え、ライアンって釣りが趣味なの?」
「全然知らなかった」
「初耳です」
食いつく俺達にそういうわけでもないんだが、と仰け反りつつ答えるライアン。
どうやら酒場で意気投合した友人の趣味に付き合うことになったらしい。
「新たな友人は常に新たな経験をもたらしてくれる。良い経験ならそれは良縁、悪い経験ならそれは悪縁だ。
……お前たちはまだ若い。一つ一つの縁を大切にな。」
長命な種族であるドワーフだけあって、ライアンの言葉には含蓄がある。
「ところで、ルーカスはまだ寝てるのか?」
普段早起きな彼が朝食の席にいないのが気になる。
ーーまさか、昨日の出来事に嫌気が差して出て行ったのか!?
「まさか。どうせ神殿にでも行ってるんでしょ」
「ルーカスさんは信心深い方ですからね。」
そうだ。神殿が管理する孤児院出身のルーカスはとても信心深い。そういう設定が確かにあった。
今日も親代わりの神官に顔を見せつつ祈りを捧げてくるのだろう。
つまり、今日何も予定が入っていないのは俺だけということになる。
落ち込む俺に気づいたのか「いつも休日は寝てるから誘わなかった」と言って慰めてくれる仲間たち。
なんで勇者のくせに前世と同じ休日の過ごし方してんだよ!!
あまりにも暇過ぎてギルドに行くと職員の皆さんが俺のワーカーホリックぶりに引いていた。
引き攣った顔で「勇者様……あの、お友達とかは、ちゃんといますよね?」と心配されてちょっと泣いた。
今は無理を言って低級クエストの薬草摘みをさせてもらっているところだ。
ーーーーーー
「まあ、たまにはこんな日があっても良いか。」
どこかでさらさらと水の流れる音がする。
案外近くに小川か、小さな滝でもあるのかもしれない。
時折小鳥のさえずりが聞こえ、木々の間から漏れる日差しが風で優しく揺れた。
心地よさに目を細めたのも束の間、背後に人の気配を感じ警戒の姿勢をとる。
「誰だ!!」
人が立ち入らない場所だからと油断していた。
俺がここまで近づかれて気づかないなんて、相当の手練れか……!
剣の柄に手を掛け、人影が現れるのを待つ。
茂みをかき分けて現れたのは……
「アレク?」
「……え、ルーカス?なんでここに?」
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