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第4話 新たな経験 前編

「アレクが宿にいないから……ダメ元でギルドに行ったらここにいるって教えてもらったんだ」 髪についた葉を落としながらルーカスはそう言い、辺りを見回す。 「森にこんな場所があるなんて知らなかったな。今度からここで昼寝しよう」 「お前、今日は神殿に行ったんじゃなかったのかよ」 ごろん、とその場に寝転がるルーカス。 この瞬間、何本もの哀れな薬草が大男の下敷きになった。 俺は鞄を無言で引き寄せ、今日の成果を死守する。 「もう行ってきた。今月分の役目は果たした。」 「義務みたいに言うな。神殿の人が聞いたら悲しむぞ。」 俺の呆れた声にルーカスは少し笑い、目を細めた。 「義務みたいなものだよ。」 意外な言葉に驚いて思わず彼の顔を凝視する。 実は原作内でルーカスという男の過去はあまり描かれない。 ただ『親代わりの神官がいて暇さえあれば出向いている』という設定から、神殿との関係は良好なんだろうと勝手に考えていた。 「嫌なことでもあったか?」 「何もない。いつも通りだっただけ。」 「頻繁に行くくらいだから、お前にとって大切な場所なのかと思ってた。 ……神様とかも好きそうだし。」 「ふふ、そうだね。確かに神様は好きだ。」 視線がぶつかった。 悪戯な風が二人を撫でてゆき、ルーカスの前髪を舞い上げる。 湖面のように木々の色を反射していた瞳が、俺を映してドロリと溶けた。 なぜ、このタイミングで、俺を、そんな目で見る。 この男、やはり掴み所がない。 そもそも、これだけの実力がある割に自己評価が低すぎるのも謎だし(原因の一端が俺にあるとしても)。 蒸し返したら墓穴を掘るから聞かないが、 やっぱりあの状況で無理のありすぎる俺の言い訳を信じてしまうのも変だ。 解雇通知書を突きつけられて二秒後に 「やっぱ嘘!これからも仲間としてよろしく!」 って言われてそれを受け入れられるものだろうか? 俺だったら確実に人間不信になるけど。 …………でもまあ、それが『主人公の器』ってやつなのかもな。 色々と考えるのに疲れた俺は、そう自分を納得させることにした。 ルーカスから無理矢理視線を引き剥がし、中断していた薬草の採取を再開する。 テンポ良く摘み取りながら、たまに混じっている別の種類の草をルーカスの方にぽい、と放った。 ルーカスもそれ以上会話を続ける気はないようで、しばらく俺の様子を眺め、次第に静かな寝息を立て始めた。 結局こいつは何しに来たんだ。 ーーーーーー 「お……終わった……!!」 途中邪魔が入ったにも拘わらず、依頼された分を優に超す量の薬草が採れた。 ギルドの人もさぞや喜んでくれるだろう。達成感で胸が満たされる。   ぐうぅうううう。 ……しかし達成感で腹は満たせない。 パチ、とルーカスの目が開き、こちらを見た。深く眠っているのかと思ったがそうでもなかったらしい。 「そういえば、昼飯って何か食べた?」 「あ」 「だと思った」 勢いよく起き上がったルーカスがパンパン、と服についた草を払う。 「せっかくの休日なんだし、このまま街まで出て何か食べよう。 新しく見つけた、良さそうな店があるんだ」 「そこって内装が可愛くてケーキが美味いカフェじゃないだろうな。」 まさかと思いつつも聞いてみる。 「普通の食堂だけど……アレクってそういう店の方が好みだった?」 リサーチ不足だったか、と呟くルーカスを慌てて遮る。 「違う!……支度するから少し待っててくれ。」 俺はいそいそと腰を上げ、散らばっていた荷物を片付け始めた。

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