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腕輪(2-2)

「釜はどこじゃ」 「スズさん、その前に聞いて」  台所でキョロキョロするスズさんの腕を引いて居間から見えないよう死角に入ると、耳に顔を近づけた。 「絶対に、ばあちゃんの目の前で“性交”とか“セックス”とか言わないで」 「なぜじゃ?」  スズさんはキョトンとしている。やっぱり悪気がないのって超厄介だ!! 「だって、恥ずかしいじゃん。人間はそういうこと言わないもんなの。ばあちゃん心臓止まっちゃう」 「だからなぜじゃ?キヌヨも性交したからお主の親が生まれたんじゃぞ。そしてお主の親もしかりじゃ。人の命の営み、性の営みは美しいものじゃ。恥ずかしがることではない」 「うっ、そうだけど……」  真っ直ぐ正論を言われて二の句が告げない。 「でも、お、男同士だし、人間と道具だし。子供とか作るのが目的じゃないから、営みとはちょっと違うと思う」 「アレは気持ちが良いものなのじゃろう?」 「えっ、あっ」  顔が熱い。耳まできっと真っ赤だ。 「儂は経験がないのでわからんが、果てる時は天にも昇る心地だという。心から愛し合う相手とするなら尚更じゃ。同性であろうと、種族が違えど関係ないのじゃ。キヌヨはそれで差別するような者か?」  俺は首を振る。きっとばあちゃんはすごく驚くだろう。プロレスなんかじゃなくてエッチなことしてるんだ、って言ったら。驚くけど差別はしない。受け入れようとしてくれる、と思う。  でも……。 「ばあちゃんは絶対差別しない。でも、それでも言わないでほしいんだ。お願いだから」 「ふむ……」  スズさんは俺の顔をジッと見た。毛穴の奥の奥まで見られてる気分だ。 「なに……?」 「……わかった。キヌヨの前ではお主らの性交の話はせぬようにしよう」 「ありがとう!」 「ただし!ただしじゃ。お主らの性交を儂に見せると約束するのじゃ」 「え!?」  スズさんは重そうな眼鏡をずり上げ、ニコッと笑う。 「それが条件じゃ。書にもそう記しておく」  いつの間にか手に持ってた大きな本を開くと、これまたいつの間にか持ってた筆でなにかを書き始めた。 「ちょ、ちょっと待って!」 「なんじゃ、契約不成立か?ならば、キヌヨー」 「わーダメ!わかったから、わかったから……た、ただし、すぐには見せられないけどいい?覚悟を決めたら教えるから」 「ふむ、良かろう。だが、なるべく早めにな。儂は気が短いのじゃ」  満足そうに微笑んでサラサラ書いてる。  書き終えたのか、パンッと本を閉じると本も筆も煙のように消えた。  はぁーっとため息をつく俺の顔を、スズさんは再びマジマジと見た。 「お主は単純で無垢じゃの。お主となら儂も性交出来そうじゃ。こういうことに無知な儂のことを馬鹿にすることもなかろう」 「バカになんてしないけど……でも、俺がそういうこと出来るのはシンだけだから……」  言ってて恥ずかしい。強引で無理矢理な奴だけど、実際気持ちいいし、痛いことは絶対しない。人の話を聞いてないように思えるけど、あの不思議な力で痛みも恐怖も全部消してくれる。なにより、大好きなんだ。シンのこと。他の誰かの体に触れたり触れられたりするなんて、もう考えられない。 「フム。純愛というやつじゃな。ならば、接吻ならどうじゃ?儂と出来るか?」 「は?なにそれ……」 「お主は接吻も知らぬのか、今風に言うなればキ」 「知ってるよ!接吻がキスくらいは!なんでやりたがるんだよ!?」 「なに、儂は経験がないからじゃ。唇は柔らかいと聞くがどのくらいか、舌を入れる……でぃーぷきすと言ったか?それはどんな心地か、全てを書き記したい」 「俺に頼まないで、他の人に言ってくれよ!」  頭が痛くなってきた。 「お主とするのが一番手っ取り早かろうが。西洋では接吻は挨拶じゃろう?大したことない。抵抗するだけ無駄じゃ。すぐに済む」  スズさんは、虚空から出てきた本を俺に手渡した。 「えっ!」  両手で受け取るが、この本がズシッと重い!膝をついてしまう。 「痛っ!重っ!」  膝を床に打ちつけてジンジンする上に、重すぎる本にのし掛かられ身動きが出来ない。さながら昔の石抱きの刑だ。 「これは儂しか持てぬのじゃ。他の者が持ち上げることは叶わぬ」  スズさんは俺の両肩に手を置いた。 「じっとしておればすぐ終わる。痛いことはなにもせんからな」 「既に膝も腕も痛いんだけど!」 「それは我慢じゃ」  スズさんは楽しいおもちゃを見つけた子供のように、瞳をキラキラさせて俺に顔を近づけてくる。  せ、せめて可愛い女の子が迫ってきたと思うしか!スズさんの滑らかな肌も、パッチリとした瞳も艶やかな唇も、女の子だと思えなくもない!め、眼鏡っ子ってやつだ、うん!  ……で、でも……やっぱ女の子だろうが嫌なもんは嫌だー! 「シ、シン……シン!」  その直後、「うわわわわ!」というスズさんの声がして肩から手が置かれた感覚が消えた。 「楽しそうなことやってんじゃねーか、ん?」  シンがスズさんの襟首を掴んで持ち上げていた。 「なんじゃ!掴むでない!離せ!じじいになんてことをするのじゃ!罰当たりめ!」  バタバタ暴れるスズさん。 「都合悪い時だけじじい面すんじゃねえ!そのじじいがなにやってんだ!?勝手に俺のモンに(さか)ってんじゃねーぞ!」 「盛ってなどおらぬわ!知識を深めようとコウタに協力してもらおうとしただけじゃ!」 「これのどこが協力体勢だ!?拷問だろうが!」  シンはスズさんの襟首を掴んだまま、空いたほうの手で俺に重くのし掛かった本を持ち上げようとする。だけど、シンの力をもってもビクともしない。 「クソッ」 「お主、貧弱よのう。好いとる相手を助けられぬのはさぞや悔しかろう」 「シン、この本はスズさんしか持ち上げられないんだって。だからスズさん、もうどかしてよ」 「嫌じゃ!儂は怒っとるのじゃ!罰当たりなことをしおって。明日までこのままの体勢で反省するがいい」 「んだと!?」  シンはスズさんの襟首から直接首に手をかけた。 「シン!?」 「くっ、やるがいい!儂を破壊した罪で後世まで呪ってやるわ!」 「シン!ダメだよ。お願いだから手を離して。俺は大丈夫だから。明日まで耐えられるから」  なんて強がって見せてるけど、足も手も痺れ始めている。このままだと血が止まるんじゃないかって気もする。運良く明日までもったとしても、エコノミー症候群とやらで急に血流がよくなったら倒れるかも。 「あら三人とも!なにをしてるの?どうしたの?喧嘩?」  ばあちゃんが食べ終わった食器を持って台所に来た。 「二人ともおかわりしに行ったままなかなか戻ってこないし、遅いからって様子を見に行ったシン様も帰ってこないのだもの」 「ううーキヌヨ!この手を離させよ!痛いのじゃ!」  相変わらずシンに首を掴まれたスズさんが暴れながらばあちゃんに助けを求めた。 「シン様、暴力は駄目よ。離してあげてくださいな」 「それならコウタの上の本を動かしてからだ」 「嫌じゃ。このまま朝までイダダダダダ!!」 「二度と朝を迎えられなくしてやる!」 「シン様っ」 「シン!!お願いだから、スズさんから手を離して。こっちに来て。シンが俺に触れてくれたら朝まできっと耐えられるから」 「コウタ……」  シンはポイッとスズさんを放り投げ、俺の元に跪いた。俺の頬に触れるシンの大きな手。それだけで痛みが軽くなった気がする。 「痛いのじゃ……。絶対に本はどかさぬぞ。儂の恨みは深いのじゃ」  涙声になってるスズさん。相当痛かったのだろう。  ばあちゃんは頬に手を当てた。 「困ったわねえ。折角のご本だから、切ったりしたら駄目よねえ」  スズさんがビクッとする。 「き、切る!?そんなのダメじゃ!許さぬ!」  シンが「へえ……」と呟いた。 「そうか、動かせないなら切りゃあいいのか。簡単じゃねーか」  キラリと光る、シンの爪。スズさんの本の表紙に爪を立てた。  キキキキキー……  本らしからぬ音だけど、傷は付いてるみたいだ。  スズさんが飛び出してきた。 「ダメじゃダメじゃ!引っ掻いてはならぬ!大事な本じゃ!」 「その大事な本をコウタに預けてんのはどこのどいつだ。どうなっても構わないんだろ?」  キキキキキー……  ×印に斜めに爪痕を付ける。 「構うわ!これに触るな!これが壊れたら、儂は虚ろになってしまう!!」  シンは、本を取り戻そうと手を伸ばすスズさんを押しのける。 「そんなの知るか」  ザクッと爪が本に食い込んだ。 「あああ!!」  スズさんが悲鳴を上げる。俺は焦ってシンに言った。 「シン!やめろ!もういいから!」 「お前は誰の味方なんだ!?」  シンが苛立ちを隠せない表情で俺に言った。 「俺は……シンの味方だよ。これでスズさんが消えたら俺もばあちゃんも悲しいよ。きっと一生後悔する。俺たちが気を病んでしまったら、シンだって嫌だろ?全てはシンのためでもあるんだよ」  相当なこじつけだけど、わかってもらえるだろうか?シンはフゥと息を吐いた。 「ほら、早くコウタからどかせ」  スズさんは慌てて本を持ち上げると抱き締めた。急にすごく、体が軽くなった気がする。腕をさすった。シンが心配そうに覗き込む。 「大丈夫か?どこか痛いところは?」  俺は首を振った。 「俺は平気。それよりスズさんの本の傷、直せない?」 「はあ!?」  シンが心底呆れた顔をしてる。 「お前はどこまでお人好しなんだ。呆れた。本当に呆れ果てた。結局、このじじいと仲良しこよしやってたかったんだろ。付き合って損した」  ゆらりと立ち上がるシン。 「シン?直せないのか?」  シンは台所の壁をバン!と叩いた。一同ビクッとする。 「出来ねーよ。物を直すことはな」 「ホントに?」 「……疑うのか」  喉の奥から絞り出したかのような低い声。シン、本気で怒ってる? 「ご、ごめっ」  謝る暇もなく、シンは台所から出て行ってしまった。怒りのオーラが目に見えるかのようだった。相当怒ってた。あとでちゃんと謝ろう。 「すまんのう……調子に乗ってしもうたわ」  本を抱き締めたまま、スズさんは小さく呟いた。  ばあちゃんがスズさんの本の傷に触れる。 「あらあら、結構傷が付いちゃったわね。ごめんなさいね、おばあちゃんが“切ったりしたら”なんて言ってしまったせいね。シン様はこうちゃんを助けたかっただけなんでしょう?スズ様、どうかシン様を責めないでね」 「わかっておる。全部儂が悪いのじゃ。人型をなして、人間とあのように食卓を囲めて。儂は浮かれてしまった。“相手を思いやる”ということを知らなかったのじゃ。悪いじじいじゃ……」  零れた涙を手の甲でゴシゴシ拭くスズさん。 「コウタよ、すまなかった。痛かったであろう?もうあのようなことはしないから、儂を追い出さないでほしい」 「追い出したりなんてしないよ。でもこの傷、直せなくて残念だなあ……」  スズさんはフフッと力無く笑う。 「大丈夫じゃ。こうして……」  本を胸に吸い込ませるように消した。 「儂の身の内に仕舞っておけば、少しずつじゃが傷が癒えてゆくじゃろうて。傷も“味”じゃ。多少残っても使うには不自由なかろう」 「そっか、良かった」  俺もばあちゃんもうんうんと頷いた。  スズさんは俺たちの顔を見る。 「お主らはほんに良い人間たちよのう。腕輪の若造の言葉を借りるならば“お人好し”じゃ。それも最高級のな」 「それ、誉めてんの?」 「誉めとるよ。ありがとう……と言うべきか」  “ありがとう”なんて言い慣れてないのだろう。誤魔化すように掻いたスズさんの頬が赤く染まったのがわかった。  居間に戻ったが、シンの姿は無かった。  茶碗のご飯は食べかけで、味噌汁も半分残ってる。おかずだって……。  あのシンが食べ物を残すなんて今まで無かった。そういえばさっき食べ始めた時から食が進んでなかったことを思い出した。  ……シンに謝りたい。  家の中を探し回ると、俺の部屋で畳んだ布団を枕にして寝転んでいた。 「シン」  右腕を下にして寝転んでいるシンの背中にそっと歩み寄り、触れた。優しくさすってみる。 「……シン、ごめんな。それに、ありがとう。俺のためにあんなに一生懸命になってくれて。本当に、すごく嬉しかった」  そのままその広い背中に密着する。 「本当に、大好きだよ。……どうしたら許してくれる?」 「……」  シンは無反応だ。寝てるのかと思って顔を覗き込んでみる。……目は開いてるが、無表情。瞬き一つしない。 「え……?」  不安に襲われた。何か、おかしい。 「シン?シン!?」  頬を軽く叩いてみる。肩を揺らすと、力無く仰向けになった。 「や、やだよ。シン!」  シンの頬を両手で包む。消えちゃう?嫌な予感が胸に黒く広がった。 「ど、どうしよう。どうしよう!」  心臓に耳を当てた。心音はちゃんと聞こえる。  再び頬に触れた。シンの瞳を覗く。目が合ってるはずなのに、シンの目は俺を見ていない。  こういう時、俺はなにも出来ない。消えるのを見てるだけ。  あの時もそうだった。 「シン、イヤだ。消えないで……」  涙で目の前が歪む。シンに唇を重ねた。  フッとシンが揺れた。身を起こしてクククッと喉を鳴らす。 「シン……?」 「あー駄目だ。耐えられねー」 「シン?なんで、一体……うわっ!」  シンに腕を引っ張られ、畳の上に押し倒された。 「怒ったか?」 「怒ってはないけど、ビックリして……」 「俺は怒ってる。何故かわかるか?」  俺は頷いた。 「ごめん。本当に。あんたが手を尽くしてくれたのに、俺だけを思ってくれてたのに、裏切るようなことばかり言った」 「それから?」 「そ、それから……昼飯あんま食べてないの気づかなかったり……」 「それから?」 「え、他にも?あとは……怒って出て行ったのに追いかけなかった」 「駄目だ。大事なことが抜けてる」 「大事なこと?なんだろ……」  息がかかるほどシンの顔が近い。顔が熱くなってくる。 「シン……」 「なんだ?」 「……キスして」  唇同士が吸い寄せられるように重なった。  シンの舌をすぐに受け止めて絡める。好きだって、愛してるってことが伝わるように、唇も体もなにもかも引き寄せて密着する。  全身が心地よく震えて、下半身が熱を持ち始めたのを感じる。 「はぁっ、シン、大好き……」 「俺も……だがな」  唇が離れた。 「お前はわかってない」  シンはため息と共に身を起こし、座ると背を向けた。 「シン……なんで……」  ここまできて、突然やめてしまうなんて驚きだった。 「お前は、あのじじいに親切すぎる。過剰なくらいだ。わからないか?初対面で肩を貸そうとした。メシも手ずから食わせるし、台所にまで腕を引いて連れて行って……。あまつさえ、口づけをしようとするなんてな。あの時、じじいを本気で壊そうとした。後悔はない。あのじじいを壊して俺も消えたい、と」  “消えたい”の言葉が震えて、途切れた。まさかシンが泣いてるのではって思って正面に回るが、泣いてはいなかった。ただ、瞳がすごく悲しそうに揺れていて。考えるより先に、シンを抱き締めた。 「シン……!ごめん!」  どうしたらわかってもらえるんだろう、どうしたら信じてもらえる?俺には言葉を告ぐしかすべがない。 「だって、スズさんってば、ばあちゃんに変なこと言おうとしてたんだよ。せ、せっくす、とかさ……俺が嫌がってたのあんただって覚えてるだろ?だから必死で阻止しようとした。それだけだよ」 「“スズさん”」 「え?」 「何故俺は呼び捨てなのに、じじいのことは“さん”を付けてる?心酔してるんじゃないか?」 「してないよ。でも、お爺さんに敬意をはらうのは当然だろ」 「お前にとっては俺もじじいのようなもんだ。敬意をはらえ」 「はらってるよ。敬意も愛情もなにもかもあんたのものだよ。俺の全てはあんただけのものだ」 「……ふん。……可愛いこと言いやがって」  シンが俺をギュッと抱き締めてくれてる。  ホッとした。もう大丈夫。  しばらくそうして抱き締め合った。 「シンってさ、結構嫉妬深いんだな。知らなかった」 「……」 「怒った?」 「いや、考えたこともなかった。だが、確かにそうだ。お前が絡むと理性が飛ぶ。抑えがきかなくなる。……今だって」  腕を解くと、俺の頬を両手で包んだ。 「今すぐしたくてたまらない」 「……うん。しよう。俺もしたい」  強く結び合う唇。俺はシンの首に腕を回して胸を擦り付ける。シンが俺の服の裾から手を差し入れた。背中を伝って、胸に回る。両手が胸を揉みしだく。 「あっ……」  すぐに乳首が固くなったようで、コロコロとしたものが胸に転がってる気配がする。  シンが俺の耳を舐め、耳たぶを吸った。 「あ、あっ」  くすぐったくて震える。  下半身が熱い。ムズムズする。シンの両手は俺の胸。早く下も触ってほしい。  我慢できずにさり気なさを装って足で擦ろうと試みる。モゾッと動いたことに気づいたのか、シンは俺のシャツを上から剥ぎ取った。そして俺を横たえると、ズボンにも手をかける。  この瞬間はかなり恥ずかしい。だって、モノが勃ってる状態で下着から出てしまうから。だから、ここを暴かれる時は、目をギュッと閉じる。  シンは、俺の下着とズボンを一緒にずり落とした。下着から解放されて下半身が勃ち上がったのが見なくてもわかる。  シンがフッと笑った。熱い顔が更に発熱する。 「わ、笑うな!あんたと比べたら粗チンだし、勃つの早すぎって思ってるだろうけどっ」 「違う。いい形で、美味そうだ。ちょうど腹も減ってるしな」 「えっ?」  目を開けて下半身を見ると、シンが俺のモノを咥えた。 「んっ!ちょっ!」  シンは口の奥まで深く咥え、舌と唇を使って先まで動かす。それを何度も繰り返した。 「あっやっ!いやだ!……ああっ」  全身に快感が走る。意識が飛びそうになる。手も使って裏を辿られ、舌で先を執拗に攻められる。今まで経験したことのない強い快感。 「あっ、あっ!ああっ!やぁっ」  腰が浮く。全て吐き出したくてたまらない。 「ああ───っ!」  下半身が弾け飛んだかのように、精液が放たれた。ドクドクと放出されているが、いつもとは違って腹が濡れる様子はない。全てシンが飲み込んでいるから。 「しんじ、られない……」  脱力状態で顔だけ下半身のほうを見る。  シンは全てを飲み干し、唇から零れた一筋さえ無駄にせず舐めきった。 「……美味かった」 「うそだ……絶対、臭いし不味いし汚いしっ」  匂いは言わずもがなだけど、前にたまたま口に付いてしまった精子を舐めたことがある。  くそまずかった。 「お前のものなら、爪の垢やへそのゴマでさえ美味く食える」  そう言ってへそをペロリと舐められた。 「うっ、そんなこと言って……変態すぎ」 「なんとでも言え。お前は俺のモノなんだろ?……他の部分も食べたい」 「え?……いいよ。痛いのはやだけど。でも、どこ食べ……わっ」  軽々と体を裏返され、俺はうつ伏せにされた。膝をついて尻を高くした体勢になる。肛門がシンに丸見えだ。 「なんか、この格好、やだっ」  尻をすぼめようとするが、シンの手が穴を広げるようにしっかりと支えている。 「まさかまさかまさか……っ!や、あっ!」  チュッと肛門を吸われ、中になにかが差し入れられた。多分、シンの舌。熱い吐息が当たって、舌を出し入れし這い回される。 「やだ、シンっ!そんなこと、あっ。やっ」  言葉とは裏腹に股間は膨らみ、先から滴っている。肛門も快感に痙攣を起こし、最早自分では制御出来ない。 「あっ、ううっ、んっ、あ」  シンの長い舌が出る度に少しでもたくさん感じたくて自然と肛門が収縮している。  腰が動いてシンをもっと欲しくなった。 「シン……んっ、あっ。もっと……っ」 「もっと?何が欲しい?」  シンが顔を上げて聞いてくる。……知ってるくせに。 「シンのあれ……」 「俺の何だ?」  こういう場合、なんて言えばいいんだろう?卑猥な言葉しか思い浮かばない!  シンはフッと笑った。 「時間切れだ。答え合わせは勝手にしてくれ」  俺の腰に口づけを2回落とすと、ググッと太いものが肛門から腰の中に進入してきた。 「あ、ああっ!」  いつものように全く痛くない。痛くないけどあまりの太さに体が驚く。  奥の奥まで入り、俺の腰にシンの体が密着した。すぐに引かれる腰。 「あっ、あ……っ」  ピリピリとした痺れを感じる。体中の毛穴が粟立った。 「ん……っ!」  再び奥まで入ってきた。  ゆっくりと出し入れされる。今までにない体勢。上壁が擦られる感覚。 「……っ」 「……痛いか?」  シンが声をかけた。俺は首を振る。 「平気……うっん、なんか…」 「どうした?」 「変な感じ……」  様子見でゆっくり動いてくれてたのかわからない。けど、段々腰の動きが早くなってくる。 「あっ、や……んっ、あ、あ、あ……っ」  両手の上に頭を置いてクッション代わりにする。そうしないと額や頬を畳で擦りそう。 「んっ、んっ、あ、んっ」  たまたま目に入った畳の(へり)の柄を見る。こんな柄だったっけ?  不意にピタッとシンの動きが止まった。 「何をしてる?」 「……え?ここ、こんな柄だったんだな、って」  柄を指で辿った。 「……つまらん」  そう一言呟いて、俺の体を反転させた。 「えっ、あっ……わわっ」  仰向けで見下ろされる、いつもの体勢になった。 「気を散らすな、俺だけを見ろ」  シンはそう言い放つと唇を重ねてきた。 「んっ……!」  乳首にも触れられる。摘ままれて軽く捻られた。体が震える。 「んん!んっ、ん」  唇は塞がれて声が発せず、喉が鳴る。  心なしか体内を穿つ力がさっきより強い。動き方が少し乱暴で、いつもより粗野だ。  ……怒ってる?  でも、キスは蕩けるほど気持ちいい。  シンの胸に手を滑らせてなぞってみた。シンがフッと笑いを漏らす。 「駄目だ。触るな」  俺の両手を持って広げると、首筋を吸われた。 「ずるい。俺も、触りたい……」 「それならここを触ってろ」  シンの背中に手を誘導された。背中なんて、つまんない。胸板が厚くて手が届ききらない、逞しい背中。汗ばんでて熱い。  体を密着していることで、俺の下半身がシンに度々触れてはちきれんばかりになってきた。 「は、は、あ、あんっ、苦しっ、ん」  動きが早い。畳がミシミシ言ってる。 「や、やだっ、もう、いきそ……っ、あ、あんっ、ん──っ」  俺自身の先から精液が放たれたのと同時くらいに、シンのものが俺の中で弾けた。  頭の中は真っ白。シンに密着していたため、自分の腹とシンの腹に白濁の液体が付いた。触れ合った腹がヌルッとしている。  でもこのまま、離れたくない。シンの背中に回していた手を強めた。  シンも優しく体を重ねてくれている。俺の中で繋がったまま。  それからすぐに俺がくしゃみをしたので、風呂に入ろうということになった。 「言っとくけど、変なことするなよ」 「ああ、わかったわかった」  面倒くさそうに答えるシン。 「変なことするつもりなら、別々に入るから」 「疑い深いやつ」  通りすがりに居間を覗くと、スズさんはばあちゃんとテレビを見ていた。  すごく興味津々で楽しそう。「良かった」と、安堵した。 「行くぞ」  シンが俺の頭を横から押した。 「いてっ!首折れるだろうが!」 「大袈裟な」  鼻で笑われた。

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