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「最強」
結局、それから会話らしい会話もなく、俺たちはそれぞれのクローラに乗り込んだ。
俺たちは戦艦で移動した後、予想着地点である砂漠で『そいつ』を待ち構えた。
日の出に照らされた砂浜はオレンジに波打っている。砂丘の向こうには、ビジネス街の高いビルがいくつもそびえ立っている。
自然と人工物が入り混じる妙な光景だった。
張り詰めた空気の中、『そいつ』は空から降ってきた。予想着地地点は的中だ。
『そいつ』は砂漠に大きな穴をあけて降り立った。粒子のように細かい砂がクローラにぶつかる。衝撃に吹き飛ばされないよう踏ん張るのがやっとだ。
青い巨人。それが『そいつ』の第一印象だった。
『そいつ』は大きさ自体は五十メートルほどの大きさで、砂漠に映える艶やかな青色をしていた。人のような形をしていて、頭はあるが顔はない。スライムを固めたような見た目をしていた。透明な皮膚の下を流れる水色の液体が太陽の光を反射させている。
青い巨人と俺たちは対峙した。その巨人がどう動くのか、固唾を飲んだ。互いに対峙したまま静寂した。
すると巨人が小さく震え出し、その姿が二重に見え、俺たちは構えた。
しかし攻撃はしてこない。巨人の頭に亀裂が入ったと思うと、その体が二つに割れた。
「分裂したッ!?」
巨人が二体に増えた。俺は叫ぶと後ろに飛んだ。
「チー、至急応援頼む」
通常、『こいつ』一体につき、クローラ二機で戦うことが多い。
『こいつら』がいつも都合よく一体ずつ来るとは限らないし、クローラもパイロットも無限にいるのにわけではない為、最小限の数で戦うのだ。しかし、いくらなんでも何を仕掛けてくるか分からない新種の『こいつ』相手に一対一で戦うのは無謀だ。
「リアン、作戦変更だ。応援来るまで時間を稼ぐぞ」
俺はリアンに呼びかけたが、返事はない。嫌な予感がした。
「おい、無視すんのは勝手だが、次に通信切ったら、二度と口利かねぇからな」
俺の牽制に、通信機からリアンの笑い声が聞こえてきた。
「なんで、分かったの」
「てめぇは毎度ワンパターンなんだよ。この後、俺の命令無視して突っ込む気だろ」
「シャドって、エスパー?」
どうやら俺の予想は当たったらしい。
リアンの操る赤いクローラは二体の青い巨人に向かって駆け出した。
仕方なくその後ろに続こうとしたが、リアンはそれを制した。
「シャドは手を出すなよ」
「はぁ?」
「一人で二体も相手出来るなんて、最高じゃん」
心底嬉しそうなリアンの声。
「てめぇ、マジで狂ってんな」
「最強って言え……よッ!」
跳んだリアンのクローラは、手前の巨人に蹴りかかった。巨人の何もない顔にクローラの足がめり込む。しかし水のように柔らかな表面が一瞬光ったと思うと、巨人の頭は鏡のような光沢に包まれた。ゴォっと重い鐘のような音が鳴る。
「硬ッ」
リアンが呻いた。鏡に変わった部分が硬化したようだ。奥にいた巨人が腕を振り上げると、粘土のように形を変え、腕が剣になった。そして光と同時に鏡の色に変わり、リアンのクローラに斬りかかる。
リアンの操るクローラは剣を避けると、手前の巨人の顔を踏み台にして宙を舞った。
そして跳び上がるその一瞬で足首の短銃を引き抜くと、宙を舞いながら、奥の巨人を撃ち抜いた。
リアンの放った弾丸は正確に斬りかかった巨人の眉間を撃ち抜いた。
(逆さまの状態から、眉間に一発。人間業じゃねぇ……)
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