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「子供」
巨人が硬化できるのは、体の一部分だけのようで、腕を硬化させていた巨人はあっさりと頭を撃ち抜かれた。しかし次の瞬間、撃ち抜かれたのと同じぐらいあっさりとその傷口が塞がっていく。
「ふぅん。核は頭じゃないんだ」
好戦的なリアンの声。その声を聞くとゾクゾクする。
やはり何を言っても、戦うリアンはかっこいい。
ずっと見ていたい気もするが、理性がそれを止めた。今はリアンの命の方が大切だ。
「リアン、今回は退け! 死ぬぞ」
「死んでもいい!」
俺の忠告をあっさりと否定する。そしてまるで自分の命を差し出すかのように、短剣を引き抜いた。
「どうせ人は死ぬだろ。だったら、俺はクローラに乗って死にたい!」
リアンは叫ぶと二つの巨人相手に斬りかかった。
俺は戦うリアンを見て虚しくなった。リアンは俺にすがっているようで、実は全く期待なんてしていない。
俺にはその声がたった一人で生きていく寂しい叫びのように聞こえた。
「……何、勝手なこと言ってんだよ」
かすれた声で、俺はようやくそれだけ呟いた。
こんな時に死にたいなんて、冗談でも聞きたくない。
しかし返ってきた言葉は子供のように拗ねたものだった。
「……だって、シャド、俺と結婚してくれないじゃん」
「ああ? そのせいで死にてぇとか言ってんのかよ、甘えてんじゃねぇよ!」
「うるさい、シャドのバカ!」
喧嘩しながらも、リアンの攻撃は手を休める事はなかった。
リアンは至近距離から、頭を硬化させた巨人に向かって短剣を振り下ろした。肩から胴に切り裂かれるが、切った先から元に戻っていく。まるで宙に浮いた水を裂くようだった。
「……あっそ」
リアンは不機嫌に呟くと、興味を失ったようにその巨人に背中を見せた。
「馬鹿! 敵に背中向けてどうすんだよ」
叫びながら俺は駆け出した。
リアンは頭を硬化させた巨人を無視するように背中を向けると、もうひとつの巨人と対面した。
そちらに向かって短剣を構える。腕を硬化させた巨人がリアンのクローラに向かって腕を振り上げた。しかし、リアンは短剣を構えたまま微動だにしない。
俺は後ろからリアンのクローラの肩を掴むと強引に引っ張った。銀色に光る刃が間一髪で空を切る。
倒れこんできたリアンのクローラを胸で支えながら、その肩の上から散弾銃をぶちかました。
巨人の体に無数の穴が空き、その背中に水しぶきが飛んだ。
本当はサーベルの方が得意だが、魚人に食われたのがトラウマになったというのは、ここだけの話だ。
「っぶねぇな、またかよ! なんで戦闘中に棒立ちになるんだよ!」
巨人に撃った弾丸は全て貫通し、傷口はあっという間に塞がっていく。全く効いていないどころか、倒れもしない。
俺はリアンに怒鳴りながら、動こうとしない赤いクローラを強引に引きずった。
リアンが戦闘中に棒立ちになったのは、これで二度目だ。
一度目は魚人と戦った時。
こいつは突然なんの前触れもなく、敵の攻撃をノーガードで受けようとする。
もし俺が動いていなかったら、こいつは確実に死んでいた。
だというのに、当の本人はどこか嬉しそうだ。
「シャドは怒ってても俺を助けてくれるんだな」
「ふざけんなよ!」
(こいつ、マジで死ぬ気かよ)
クローラのハンドルを握る手が微かに震えていた。リアンが死んでいたかもしれないという恐怖が遅れてきたようだった。それを隠すように俺は強がって、リアンに呼びかけた。
「最高にかっこいいやつ見せてくれんだろ。ダセェ事すんじゃねぇぞ」
ようやくその気になったのか、リアンは自分の力で起き上がった。
そして、俺の散弾銃を手に取った。
「そんなモン、効かねぇだろ」
「本当にそうかな」
たった今、弾を無駄にしたところだ。それなのに、リアンは自信ありそうに散弾銃を構えた。俺もリアンと背中に合わせになるようにして構えると、サーベルを抜いた。
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