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「出来る」
「あいつらは、剣も銃弾も効かない。なのに、なんでこいつは、頭を大事に硬化させてんのかな」
「……まさか……、うわッ」
「あいつの核、頭にあるんだろ」
頭を硬化させた巨人が襲ってきて、とっさに防御した。しかしその手は水風船のように柔らかく、俺の動きを止めることは出来ない。かといって、こちらが斬りかかっても、まるでダメージは効かない。
どうしようもない取っ組み合いに、コントかと思わなくもないが、やってる方はいたって真剣だ。
突如、頭上に何かが飛んだ。
片腕を剣の形に硬化させた巨人が、俺たちの頭上を越えて、豪快に砂山に沈んだ。リアンが巨人を投げ飛ばしたようだ。
「シャドそのまま、そいつ掴んでて」
リアンは叫ぶと、こちらに向かって突進してきた。
俺はリアンに言われた通り、半透明の巨人を必死に掴んだ。力を入れ過ぎると表面が割れるから、絶妙な力加減を要する。
リアンの操るクローラは俺の背後で仰向けに滑り込んだ。
俺のクローラの足の間を器用にすり抜けると巨人の股下から散弾銃を構えた。
「じゃあな!」
舞い上がる砂の間から覗かせた銃先が、火を吹いた。発砲音が響くと無数の弾道は花火のように散り、巨人の股から頭へと一気に突き抜けていく。
その直後、もう一度、銃声とは違う乾いた破裂音が響いた。
その音と共に巨人の体が飛び散った。掴んでいたはずの巨人の体は水滴となり、雨が降るように地へと還った。
(個体によって核が違うのか……)
巨人が散ったのを目の当たりにして、俺は興奮
気味にリアンを振り返った。
危ないと言いたいのについ口許が緩んでしまう。
「お前、俺に弾が当たったらどうすんだよ」
「俺がシャドに弾なんか当てるわけないだろ」
当たり前のように言ってのけるリアン。やっぱり、クローラに乗っているリアンは最高にかっこいい。
俺はリアンの相棒以前に、リアンのファンなのかもしれない。
そんな俺の心を見透かしたようにリアンは笑う。
「今、俺のことかっこいって思っただろ」
(なんで分かるんだよ)
「思うか、アホ」
「ふぅん、シャドって本当、嘘つきだよな」
ザァッと音を立ててもう一体の巨人が砂山から立ち上がった。
「……分身やられても、生き残るタイプかよ」
思わずうんざりした声が出てしまった。
分身が飛び散ったのを見たせいだろうか、再び体を光らせると、剣に変化させていた硬化を解いた。
その代わりに全身を鏡のように硬化させた。
「マジかよ、全身って……」
全身を銃も剣と効かないように施されてしまっては、手も足も出ない。
弱音を吐いた俺に対し、リアンは短く言った。
「大丈夫」
リアンがたった一言そう言っただけなのに、本当に大丈夫だと思えるから不思議だ。
俺はシャドが動くよりも先にサーベルで斬りかかった。巨人は片腕をあげてやすやすと防いだ。が、その感触に手応えを感じた。
見ると、巨人の腕にガラスが割れたような亀裂が入っていた。
「さっきより硬くねぇかも……?」
硬化させる範囲が広ければ広いほど、その硬度は落ちるようだ。
「シャド、核は胸だ」
「なんで分かるんだよ」
「さっき攻撃した時、やたらと庇った」
(本当、よく見てんなこいつ)
リアンの言うとおり、胸に向かって一度、攻撃を仕掛けると、巨人はその後、胸を庇うように片手を胸に前に出した。
先ほどの巨人といい、この巨人といい、弱点を簡単にバラしてしまうあたり、あまり知能は高くないのかもしれない。
サーベルを振り下ろすと巨人は片手でその刃を掴んだ。俺は巨人にサーベルを掴ませたまま、素早く背後に回り込んだ。そしてそのまま背中からサーベルを首に押し当てる。暴れようとする巨人の体を力で無理やり封じる。
俺は重なった体を巨人ごとリアンに向けると、叫んだ。
「おい、リアン! 核を貫け!」
「シャドもけっこう捨て身なことするよな」
リアンが意外そうに呟いた。確かにぴったり巨人に密着してしまっては、核を貫いた拍子に自分のクローラまで傷つく恐れがあった。しかもコックピットはクローラの胸。つまり、巨人の核のすぐそばだ。
「お前なら、俺を傷つけずに出来るだろ。とっととやれよ」
「言うね」
俺の安い挑発にリアンはやすやすと乗ってくる。
リアンの真っ赤なクローラはサーベルを抜き、構えた。
操縦桿を握る手に力がこもる。
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