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「誕生日」

しかし、リアンはサーベルを構えたまま、攻撃してこない。 「おい、早くしろよ。ビビってんのか?」 声をかけてみるが、返事はない。リアンのクローラはサーベルを構えたまま、立ち尽くしているだけだ。 巨人は激しく抵抗をする。背後から動きを止めるのも長くは持たなさそうだ。 「リアンッ! こんな時にふざけてんじゃねぇぞ」 俺は怒鳴ったが、事態は何も変わらなかった。 そこで俺はようやくその違和感に気付いた。 (いや、違う……。これは、動かないんじゃない。動けないんだ) いくらリアンが死にたがりの馬鹿でも敵にとどめを刺さないなんて考えられない。 故障? 敵からの妨害? ならば、なぜ、リアンは何も言わない。 突然止まったクローラに驚いた様子もない。 俺は思考を巡らせた。 (リアンは、こうなる事を知ってたのか?) 「……あ」 ふと、戦場に行く前のリアンの言葉を思い出した。正確にはリアンに贈られた言葉だ。 『生まれてきてくれてありがとう。今日があなたの誕生日よ』 ……今日があなたの誕生日。 それが意味するのは、リアンの誕生日は、生まれた日ではなく、リアンが孤児院に来た日だという事だ。 「リアン、今すぐクローラを自動操縦(オートメーション)に切り替えろ」 「なんで」 「お前、とっくに十八になってんだろ」 俺が言うと、リアンは沈黙した。 誕生日が実際の生まれた日ではないなんて、普通に生きていれば、さほど問題ではない。 しかし、クローラのパイロットとなると話は別だ。クローラは十八才から徐々に操作不能になっていく。個人差はあるが、遅くとも二十歳になる頃には、完全に動かなくなる。早い者は十八の誕生日その日に全く動かせなくなった者もいたぐらいだ。 おそらくリアンの本当の生まれた日は誕生日よりも早い。 リアンはクローラを動かさないんじゃない。 十八才になってしまったリアンは、クローラを操縦できなくなってきているのだ。 敵が襲ってきているのに、棒立ちになっていたのも、動けなくて止まっていただけだ。 リアンはのんきに話を反らしていたが、俺が助けなければ、本当に死んでいただろう。 噛み殺すような笑い声と共に、リアンは沈黙を破った。 「なんでバレるかなぁ。あーあ、もう少しだったのになぁ」 どうしてそれを分かっていて乗ったんだ。 どうして俺に何も教えてくれなかったんだ。 俺は声を荒げてこの馬鹿に詰め寄りたかったが、そうも言ってられない状況だった。 巨人は首に当てられた刃を押し返そうと先ほどから、抵抗している。 俺もクローラの力で抑え込んでいたが、サーベルが限界を迎えたようだ。 ミシッと音を立てて、刃にヒビが入った。 「ちッ」 一瞬の動揺の隙に巨人が素早く動き、拘束が外れてしまった。正面に立っていた巨人は振り返り側に、肘鉄をクローラの頭に食らわせた。衝撃でクローラが宙を舞う。 揺れるコックピットの中で、俺は追撃に備えた。しかし、巨人が向かったのは、俺ではなくリアンだった。 未だに動けずにいるリアンのクローラに巨人の拳が容赦なく降りかかる。 「リアン、避けろ!」 「無理だよ」 最後の一語とともに、リアンの赤いクローラはあっさりと吹き飛ばされた。柔らかな砂山にクローラは、無様に沈んだ。抵抗しないリアンをいいことに巨人は、リアンの肩を持つともう一発、その頭に拳を振るった。金属と金属のぶつかりあった嫌な音が辺りを響かせた。 たった一発顔を殴られただけだというのに、クローラの顔面は無様に変形してしまった。リアンのクローラがこんな姿になったのは初めてだった。 「ぐぅッ……」 リアンのうめき声を聞いて、俺はすぐに立ち上がった。そして、目の前の光景に息を飲んだ。 巨人がリアンのクローラの首を掴んで立っていた。

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