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「勝手」
巨人は腕を細い針のように変形させ、構えている。その長さはゆうにクローラを貫けるほどだ。
あんなので貫かれたら、無事じゃ済まない。
「リアン、脱出しろ!」
しかし返事はない。拒絶の意だ。
俺は短銃を抜くと、引き金を引いた。弾丸は巨人の表面に覆われた鏡をわずかに凹ませるだけだった。それでも、巨人はわずかに注意を引いた。俺は何度も引き金を引きながら、走った。
「うわぁぁッ!」
やめろやめろやめろ!
頼むから、リアンを殺さないでくれ。
俺は弾切れになっても、引き金を引いて、必死に走った。
「てめぇの相手は俺だ!」
叫びと共に、俺は地を蹴って殴って巨人に殴りかかった。
しかし、宙を浮いたのを見計らって、巨人が動いた。
(ーー罠ッ)
しかし、気付いた時には遅かった。巨人の針が俺のクローラの顔に向かって突き出された。
俺はとっさに軌道を変えて、顔を傾ける。針がクローラのこめかみを削っていった。その針を掴もうと手を伸ばしたが、それを嫌うように巨人は針を振り払った。
その衝撃で、俺はリアンのクローラと折り重なるようにして倒れた。
「俺のサーベルを!」
リアンが叫んだ。リアンのクローラの手には握れたままのサーベルがあった。俺はそれを手に取って反撃しようとしたが、巨人の方が速かった。再び衝撃が走った。コックピットの画面いっぱいに巨人の針が映る。
(こいつ、コックピットの位置が分かってんのか……!)
巨人の針が、胸にあるコックピットめがけて攻撃しているのだ。
コックピット周りは硬く守られており、簡単には貫けられないようになっている。
しかし巨人は執拗に同じ場所を攻撃してくる。
俺もサーベルで反撃するが、後ろにリアンがいるかと思うとうまく動けずにいた。
「何してんだよッ! 」
リアンの叫びもどこか歯がゆそうだ。今のリアンは野次を飛ばすぐらいしか出来ないのだ。
巨人の片手が俺のクローラの腕を掴んだ。動きがさらに鈍り、それを見逃さまいと胸に針が刺さる。
バチバチと音を立てて、針がめり込んだ。何層もある防御壁が破壊されていく音が、スピーカー越しではなく、直接耳に届いた。胸のカメラが破壊され、メインディスプレイが暗転する。
あと一度か二度、巨人が攻撃すれば、その攻撃は確実にコックピットにいる俺に届くだろう。
脱出しろとアナウンスが響く。
「シャド、脱出しろ」
ついさっき俺が叫んだ言葉をリアンは繰り返す。
こんな状況にもかかわらず、苦笑が漏れた。
「どの口が言ってんだ、てめぇ」
俺は操縦桿を握る手が震えているのは恐怖なのか武者震いなのか俺にも分からない。
クローラはまだ動く。
しかし、この状況からの逆転は厳しい。
「死にてぇんだろ。だったら、俺も心中してやるよ」
操縦桿の向こうにある、自爆装置に視線をやった。
やられる前にあれを起動させるしかない。
「やめてくれ、シャド……。俺はそんなこと望んでない」
リアンは震える声で懇願する。
まるで俺の考えがわかるみたいな口ぶりだ。
俺もリアンの感情が悲しみで溢れているのがよく分かる。
「泣いてんのか、リアン。てめぇは、本当に勝手なやつだな」
自爆装置の表面を覆っているガラスを割るとそのレバーに手を掛けた。片手に操縦桿、片手に自爆装置という状況だ。
少しでも近づこうと、そのタイミングを伺った。
巨人が針を振り上げた。
その瞬間、背後で爆発音がした。
突如リアンのクローラが爆発したのだ。リアンのクローラは上半身だけ千切れた状態で、巨人に向かって飛んでいく。そして、その空中でリアンの機体は確かに動いた。
上半身だけになった赤い機体がその針にまとわりつくようにしがみつく。
「リアンッ」
リアンのうめき声が聞こえる。
リアンのクローラが針になった腕を抱えるようにして動きを止めようともがいている。
巨人に掴まれていた力が一瞬、緩んだ。
俺は腕を振り払うと両手でサーベルを構えた。
「シャド、ぶっ刺せぇッ!」
俺はリアンの叫びに応えるように、その刃先を巨人の胸に突き立てた。
ガラスが割れるような音と共に、サーベルが深く突き刺さる。
俺は雄叫びをあげて、さらにそれを深く抉った。
もう一つ何かが弾ける音がしたと同時に、巨人の体は水しぶきとなって弾け飛んだ。
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