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「覚悟」
グローブで頰を撫でると、血と涙が混じって滲む。
リアンが瞬きをする度に涙が雫となって俺の顔を濡らした。
泣いているリアンを見ていると、自然と唇が動いた。
「好きだ……リアン。ずっと、好きだった」
リアンが呆然とした顔で俺を見つめている。
どうしてこんな簡単な言葉が今まで言えなかったんだろう。
一度溢れた思いが堰を切ったように溢れ出した。
泣きながら、俺はリアンに縋るような言葉を吐いた。
「もう、どこにも行かないでくれ」
「うん」
俺がリアンを抱きしめると、リアンも俺の背中に手を回した。
もう二度と離れないように、二人は強く抱き合った。
◇◆◇◆
迎えのヘリで兵舎に戻るころには昼を過ぎていた。
額と右腕を負傷したリアンは医務室で治療を受けた後、彼の自室に戻された。
普段はクローラを降りた後、別々に行動するが、リアンが負傷したこともあり自室まで付き添った。
額も腕も何針か縫ったらしく、褐色の肌に真新しい包帯が巻かれていた。
大丈夫と言い張るリアンを半ば強引にベッドに寝かせた。俺は机の下にあった椅子を引くと、ベッドの傍らに腰掛けた。
「痛くねぇか?」
声をかけると、居心地悪そうに横たわっていたリアンがようやく白い歯を見せた。
「痛いけど……。シャドが優しくて嬉しい」
「アホ」
まるで病気を喜ぶ子供のようだと、こちらまで笑ってしまった。
リアンの足元で敷かれたままの薄手の毛布を手に取ると、その体に掛けた。
「寝とけよ。今日寝てねぇだろ」
「それはシャドも一緒だろ」
深夜零時を過ぎた頃に襲来警報が鳴ったせいで、睡眠どころではなかった。
意識すると眠気が襲う。
しかし目を離したらリアンは休まずに雑務をこなそうと、動き出しそうだ。
「お前が寝たら寝る」
あくびを噛み殺しながら、俺は窓の外に視線を移した。
夏の入道雲が平和そうに浮かんでいた。
俺はひとつ息を吐いて、机に肘をついて体をそれに預けた。
外をぼんやりと眺めているうちに、気が付けば眠りに落ちていた。
うたた寝の心地良さは一瞬だと思ったが、目を覚ました時には窓の外の入道雲は消え、空がオレンジ色に染まっていた。
リアンに掛けたはずの薄手の毛布が俺の背中に掛かっている。
「……リアン?」
ベッドを見たが、そこにリアンはいなかった。部屋を見回したが、誰もいない。
(あいつ、マジで言うことをきかねぇよな)
心の中で毒づいて、背伸びする。
毛布を畳んで、ベッドに戻そうとした時、数枚の写真が散らばっていることに気づいた。
それを手にとって俺は顔が引きつった。
その写真はどれも俺の写真だった。
しかも全て隠し撮りだ。
もともと写真を撮られるのが嫌いなので、黙って撮ったのだろう。こんなに撮られているなんて全く気づかなかった。
隠し撮りのせいか、どれも写りは悪い。
「ストーカーかよ」
一人心地に呟いて、小さく笑った。
――ずっと好きだったんだと思う。
そう言ったリアンの言葉はあながち嘘ではないのかもしれない。
ベッドに腰掛けると何もなくなってしまった部屋とその隅に重なったトランクを眺めた。
明日には、このトランクもなくなり、リアンも去る。
大きく息を吸い込むと、天を仰いだ。
細く長く息を吐きながら、静かに決心した。
「……俺も覚悟決めるか」
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