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Accident -不慮-

 四人を乗せた車は深い森の中、鋪装されていない獣道を無理に走り進める。  四人の内車の運転免許を持っているのは柊弥だけであり、ナビにも表示されない道をヘッドライトの明かりだけで進む。 「うわっ」  突然の柊弥の声と共に何かが破裂した音が響き、車が停車する。 「どうした?」  綜真が運転席の柊弥へと声を掛けると、身を寄せていた千影も薄ら目を覚ます。 「パンクじゃないですか、何かが弾ける音がしたし」  深雪は窓の外へと視線を向けたままだったが、聞こえた音から推測するとそれしか考えられなかった。  深雪と千影を車内へ残したまま、綜真と柊弥は車を下りてタイヤを確認する。すると後部のタイヤに踏みつけた石か木の枝の影響で大きな裂け目が入りパンクしていた。 「あちゃーこりゃざっくりいったな」  千影の救出を優先するあまり予備のタイヤを詰んでおらず、これ以上走行が不可能である状態に柊弥と綜真は互いに顔を見合わせる。  窓越しにふたりの会話を聞いていた千影は扉を開いて顔を出す。 「ならもう歩くっきゃねーだろ」  待っていてもタイヤが直る訳ではなく、夜が深まる森の中で立ち往生する状況こそが悪手であると考えた千影はこの場で車を捨て、歩いて山を越えることを提案する。  柊弥や綜真の提案ならばいざ知らず、千影がそう言うのなら仕方ないと深雪も扉を開けて助手席から車を降りる。 「ッ!?」  外に出た深雪と、車を挟んだ反対側に立っていた柊弥はほぼ同時に何かの気配に気づいて振り返る。  聞こえるのは風が揺らす木々の音と遠くに聞こえる獣の鳴き声。それでもふたりはこれまで進んできた方面から何かが迫ってきているのを感じていた。 「ふたりとも、どうし――」 「千影」  何かを察したふたりへ声を掛けようとする千影だったが、千影が聞くよりも先に深雪が千影の腕を掴んで引き寄せる。 「風向きを進行方向へ。来た方向に流れないように」  千影は驚いて深雪の顔を見る。千影の扱う固有能力は天候を操るものだった。当然風向きでさえも自在に扱うことが出来る。  暴風雨を呼び、それに紛れて逃げることがこの状況下において最も確実な逃走手段でもあったが、四人の中で唯一ただの人間である綜真が生き残れる可能性は限りなく低かった。 「――分かった」  綜真は往生した車に背中を預け手で風を覆いながら咥えた煙草に火を付ける。この煙ですら嗅覚が発達した相手には自らの居場所を知らせるだけのものであり、それも危惧して深雪は自分たちの匂いが追手に流れないよう僅かな能力を使用するよう千影に指示した。 「深雪、お前平気か? 顔色悪ィけど」 「俺は問題ありません。行きましょう千影」  綜真からの心配を一笑に付した深雪は千影の背中を叩いて行動を促す。  ただひとり、柊弥だけが今自分たちが来た方向をじっと眺めていた。  柊弥は自分たちが今来た方向をじっと眺めている。 「柊弥、ほら行くぞ」  進行方向へと風向きを変えているからこそ、柊弥に感じ取ることが出来る微かなその匂い。 「俺はここで追手を食い止める。お前らだけで先に行っていいよ」  同じものを深雪も感じてはいたが、だからこそ深雪は一刻も早くこの場所を立ち去ることを提案した。  しかしそれだけではいつ追いつかれるかも分からない。柊弥はひとりこの場に残り追手を足止めすることを選択した。

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