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Resurrection -復活-
「……俺も同感、ッ!」
柊弥は深雪に覆い被さる十六夜を引き剥がす。抉れて失ったはずの片腕は元通りになっていた。
「まさか、っ……」
ただ死を待つのみだった柊弥のここにきての復活に十六夜は状況を処理出来ず大きな身体が木の葉のように宙を舞い、背中から転落する。
柊弥は自らの唇を舐め上げる。それは深雪の流した血が柊弥の口から入ったことにより、図らずも吸血鬼の本能により損傷した部位を回復したからだった。
吸血鬼の一族にはそれぞれ固有の能力があり、本来柊弥が持ち得る能力は怪力であったが血液を摂取したことによる回復は固有能力とは関係のないものだった。
「遅い、んですよ……この、ノロマ……」
柊弥の復活を目の当たりにした深雪は口元に笑みを浮かべてそのまま倒れ込む。
呼吸をするだけで腹の奥が焼けるように痛む。後はもう柊弥の回復とその怪力に賭けるしか無かった。
深雪では持ち上げることもままならない、苔のむした大岩を軽々と持ち上げ十六夜の足の骨を砕くように叩き付ける。一度だけではなく何度も。
「よくも、よくも千影と深雪にこんなことをっ!!」
このまま岩で十六夜の全身を叩き潰しても良かったが、それだけでは柊弥の気持ちが収まらない。十六夜の上へ馬乗りに跨り、苦痛に歪む十六夜の顔を押さえつける。
「アンタだけは絶対に許さないっ、父親であっても!!」
勝手に血の繋がりを感じて仲間意識を抱いていた千影に対する行いよりも、今目の前で深雪に対して行われた非道な行いを。
柊弥は十六夜の頭部と肩を掴み、怪力のままその体を引き裂く。柊弥にとってはまるでチーズを裂くのと同じで、筋肉の線維が断ち切れる感触と密度の高い肉が呆気なく剥がれていく感触をその手に感じていた。
「うがぁあああっ!!」
十六夜の断末魔が静寂の森に響く。鳥が一斉に飛び立ち、荒れるように木々が揺れる。
四肢を引き裂き、その亡骸に火を放っても柊弥は安心出来ないままでいた。
千影の父親であるこの男は、吸血鬼と人狼の混血であり、異種族間の混血はどのような特異能力が生まれるか明らかではない。怪物じみた戦闘能力も恐らく混血である故であり、燃え尽きた灰の中からでも復活し得ることを完全に否定は出来なかった。
これは一時的な脅威を退けただけに過ぎず、復活如何に関わらず一刻も早くこの場を離れることが先決と考えられた。
身に受けた返り血もそのままに、柊弥は振り返り深雪へと駆け寄る。虫の息ながらも呼吸は微かに感じられ、その細い身体を抱き上げるとぐにゃりと力なく深雪は腕を落とす。
「深雪、掴まれる?」
「っは、鋭意、努力……します、っ」
深雪は力なく笑う。
「よしっ、上等」
そもそも深雪が助けに現れなければあの瞬間に柊弥は死んでいたかもしれない。千影を最優先に考えていた深雪が態々自分を連れ戻す為に引き返し、その結果もう手の施しようがない程の重症を負った。
吸血鬼である柊弥の特別な嗅覚は、その死の香りすらも敏感に感じ取っていた。
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