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第5話

「ここが防音室だよ」  宏実は、綾人を地下室に引っ張っていった。 「空調はここで変えられるから好きにしていいぞ。あと、このカーテンは使わない時以外は閉めておくようにな。鏡が汚れるから」 「わかった。ありがとう、助かったよ」 「べ、別に……」  にこりと微笑まれて、また心臓がドキドキしてきた。目を合わせるのも恥ずかしくて、宏実はわざと邪険に視線を外した。 「ところで宏実は、今何の勉強をしているの?」 「は?」  唐突にそんなことを聞かれ、思わず聞き返す。 「何ってなんだよ?」 「ほら、楽器にもいろいろあるじゃない? ピアノとかフルートとか……」  なんだ、そういうことか。「何の勉強」なんて聞くから、てっきり小学校の授業のことかと思った。 (っていうか、楽器なんて特にやってないんだけど……)  でも、ここで「何もやってない」なんて言うのもなんだかカッコ悪い。  考えた挙句、宏実はいろいろとごまかしが利きそうな出まかせを言った。 「俺は作曲家志望なんだ」 「へえ、そうなんだ? いつか宏実の作った曲、弾いてみたいなあ」 「別に俺、あんたのために作曲家になろうとしてるわけじゃないんだけど」 「それはそうだけど、弟が作ってくれた曲を弾くってなんか憧れるじゃない?」 「知らね。あんたの憧れなんて俺には関係ないし」 「そ、そっか……そうだよね……」  再び肩を落としてしまう綾人。 (やべ、また言い過ぎた……)  自分自身も若干凹む。なんで俺はこんな言い方しかできないんだろう。本当はもっと仲良くしたいのに。嫌いなわけじゃないのに、どうして……。

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