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第6話

「じゃ、じゃあ……せっかくだから何か弾いてあげるよ。何がいい?」  落ち込んだ気分を変えるように、綾人が改めてバイオリンを手にした。リクエストを求めているようだが、弾ける曲にもレパートリーがあるはずだ。  宏実は空いている椅子にドカッと座り込み、少し口を尖らせて聞いた。 「何って、逆にあんたは何が弾けるんだよ?」 「うーん……そうだな。簡単な曲でよければ、耳コピで弾けるかもしれないけど」 「じゃあ……」  試しに、某RPGゲームのサウンドトラックをリクエストしてみた。港町を冒険する時にかかる音楽で、そのゲームの中では一番気に入っているBGMだ。  とはいえ、ずっとヨーロッパでバイオリン三昧だった綾人がこの曲を知っているとは限らない。仮に知っていたとしても、「弾け」と言われてすぐその場で弾けるほど簡単な曲ではない。  まあ無理だろうな……と半分諦めていたら、 「あ、それね。わかった、やってみる」  と、当たり前のように弾き始めたのだ。しかも簡単なアレンジまで加えている。これにはさすがに面食らった。 (普通にすげーな、この人……)  最初にちょっと聞いた時も思ったが、すごく耳に心地いい音を出している。正確に弾くのはもちろん、聞く側を堅苦しくさせない雰囲気もあった。きっと本人が自由にのびのび演奏しているからだろう。 「音は正直なのよ。楽しんで弾かないと、自然とつまらない音になっちゃうの。音楽は『音を楽しむ』のが一番よ」  そんな風に母が言っていたのを思い出す。 (俺……綾人の音、好きかも)  ずっと側で聞いていたい。いつも好きな時に聞かせて欲しい。既存の曲をリクエストするだけじゃなく、自分の好きなようにこの音を転がすことができたら……。

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