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第7話
「はい、おしまい」
バイオリンの音が途切れて、ようやく宏実は我に返った。黒々とした双眸が真っ直ぐこちらを見つめてくる。
「どう? 気に入ってくれた?」
「ああ……まあ、な……」
「そっか、よかった」
微笑んだ顔を直視できず、静かに目を逸らした。自分の頬がほんのりと赤らんでいる。心臓の鼓動も早い。
(ああ……なんか俺、わかったような気がする……)
綾人の音が好きなんじゃない。俺が好きなのは、綾人そのもの。綾人の全てが、俺を魅了してやまないんだ……。
「宏実が気に入ってくれてよかったよ」
綾人がバイオリンを近くの机に置き、譜面台に楽譜をセットした。チラリとそれを覗いたら、八分音符や十六分音符が山のように並んでいた。見ているだけで目がチカチカしそうだった。しかもよく見たら、テンポが「アレグロ」になっている。いかにも難易度の高そうな曲だ。
「……綾人、そんなの弾けるのか?」
「練習すればね。でもやっぱりちょっと難しくて。一筋縄ではいかないな」
「…………」
「じゃあ僕はしばらくここで練習してるから、何かあったら声かけてね。宏実も、作曲頑張って」
「あ、ああ……うん」
練習を再開してしまった綾人。
仕方なく宏実は、邪魔しないよう防音室を後にした。
(綾人、本当に俺が作曲家になると思ってるのか……)
今更「音楽をやる気はない」なんて言えない。小学校高学年の男子児童は得てして妙なプライドを持っていることが多く、「勢いのまま出してしまった発言を素直に撤回できない」という面倒なところがあった。宏実の場合もまさにそれだった。
そして何より、「俺の作った曲を綾人が弾いてくれたら最高だろうな」という思いが芽生え始めていた。
ピアノやバイオリンは無理でも、作曲家だったら今からでも遅くはないはず。
そう思った宏実は、母のところに駆け込み、
「母さん、作曲家になるにはどうすればいいの?」
と、詰め寄ったのだった……。
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