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第10話

 祖父・源三郎の火葬も済み、設楽家に連なる大勢の親戚と共に食事を取ることになった。  宏実は比較的親戚付き合いを大事にしていたので、『祖父の義姉の娘の夫』くらいまでは顔と名前が一致する。  ……が、一方の綾人は長年日本を離れていたため、誰が誰だかさっぱりわからないみたいだった。唯一わかるのは従兄弟の剛毅とその親くらいだ。 「久しぶりだな、綾人。元気してたか?」 「元気だよ。剛毅こそ、最近どう?」  綾人と剛毅が会話している。親戚と適当に会話を交わしながら、宏実は耳だけ彼らの会話に向けていた。 「……で、綾人はいつまでこっちにいるんだ?」 「そうだね……明日には帰ろうかな」  思わず耳が大きくなる。なんだって? 明日帰るだと? 「明日? 随分急だな。昨日来たばかりなんだろ? もう少しゆっくりしていけばいいじゃねーか」 「そのつもりだったけど……迷惑になったら悪いし、早く帰った方がいいかと思ってね」 「迷惑なんかじゃねーよ。ていうか、誰がそんなこと言ったんだ?」 「それはまあ、なんとなく……。ホラ、そういう空気みたいなものってあるじゃない?」  それを聞いて、宏実はひどく心が痛んだ。  違う、俺が言ったんだ。俺がハッキリ「迷惑」と言って綾人を傷つけたんだ。でも綾人は決して俺のせいにしないで、「空気で察した」と嘘をついた。いっそ正直に「宏実に言われた」と白状してくれた方が、まだ気が楽だったのに。

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