11 / 19

第11話

「ふーん……じゃ、マジで帰っちゃうのか。スケジュール空いてるなら、一緒にどっか行こうと思ったんだけどな」 「ごめんね。でも、もしヨーロッパに遊びに来ることがあったらその時はまた連絡して。いろいろ案内してあげるから」 「ヨーロッパって言ったって、いろんな国があるじゃん。綾人、今はどこに住んでるんだっけ?」 「今はオーストリアかな。各地を転々としているから、一ヶ所に留まることはあまりないかも。でもユーロ圏内なら比較的移動も自由だし……」  その後の会話は、ほとんど耳に入らなかった。 (綾人、マジで明日帰るつもりかよ……!)  それはマズい。こんなすれ違った関係のまま別れたくない。このまま明日を迎えたら、今度は一生会えなくなるかもしれない。 (だって綾人、明らかに俺を避けてるし……)  物理的な距離は、心理的な距離と密接な関係にある。スキンシップをとれば親しみが湧き、離れれば離れるほど親密さは下がっていくものだ。遠距離恋愛の成功率が低いのは、きっとこのためだと思われる。  そう考えると、明日綾人が帰ってしまうのは最悪だ。  綾人の活動拠点はヨーロッパである。頻繁に連絡を取り合ったとしても、おいそれと会える距離ではない。そんな遠くに行かれたら、こういった法事でもない限り二度と会えなくなる。いや、法事でさえも理由をつけて出席してくれなくなるかもしれない。  もちろん、全部自分が悪いのはわかっているけど……。 (こうなったら……)  宏実の頭を占めているのは、子供じみた強い焦燥感だけだった。  綾人の気持ちなど、考えている余裕はなかった。

ともだちにシェアしよう!