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第11話
「ふーん……じゃ、マジで帰っちゃうのか。スケジュール空いてるなら、一緒にどっか行こうと思ったんだけどな」
「ごめんね。でも、もしヨーロッパに遊びに来ることがあったらその時はまた連絡して。いろいろ案内してあげるから」
「ヨーロッパって言ったって、いろんな国があるじゃん。綾人、今はどこに住んでるんだっけ?」
「今はオーストリアかな。各地を転々としているから、一ヶ所に留まることはあまりないかも。でもユーロ圏内なら比較的移動も自由だし……」
その後の会話は、ほとんど耳に入らなかった。
(綾人、マジで明日帰るつもりかよ……!)
それはマズい。こんなすれ違った関係のまま別れたくない。このまま明日を迎えたら、今度は一生会えなくなるかもしれない。
(だって綾人、明らかに俺を避けてるし……)
物理的な距離は、心理的な距離と密接な関係にある。スキンシップをとれば親しみが湧き、離れれば離れるほど親密さは下がっていくものだ。遠距離恋愛の成功率が低いのは、きっとこのためだと思われる。
そう考えると、明日綾人が帰ってしまうのは最悪だ。
綾人の活動拠点はヨーロッパである。頻繁に連絡を取り合ったとしても、おいそれと会える距離ではない。そんな遠くに行かれたら、こういった法事でもない限り二度と会えなくなる。いや、法事でさえも理由をつけて出席してくれなくなるかもしれない。
もちろん、全部自分が悪いのはわかっているけど……。
(こうなったら……)
宏実の頭を占めているのは、子供じみた強い焦燥感だけだった。
綾人の気持ちなど、考えている余裕はなかった。
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