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第7話

 シュジェールは何もこたえなかった。意識は言葉に集中していたが、唇は甘い喘ぎ声をあげていた。イサキオスの指が下腹部の金色の茂みの中心を強く握りこみ、ねっとりと執拗に這い回っていたのだ。 「私が今、元老議員なら迷うことなくそうして、君を略奪して連れ帰っていた。だが、私が元老議員になる頃には、君も立派な大臣になっているだろう」 「あ……、んくっ、ん」  イサキオスがュジェールの唇を噛みつくように覆う。濡れた舌が絡みあい、湿った音をたてている。薔薇の濃い香りがシュジェールの鼻腔をいっぱいにして、息苦しさに声があがる。流しこまれた唾液が唇のはしをつたっておちていく。 「あ、あ、イサーク、ああっ」 「シュジェール、静かに。ここは私の邸じゃない。大学だよ。外にひとは立たせてあるけれど」 「あ、じゃあ、もう……はなして」 「いやだ」  イサキオスは自分の広い胸にシュジェールを抱きこんだ。 「シュジェール、本当に、私の国に来る気はないのか? 妹を嫁がせた今、私は間違いなく元老院最高人物に登りつめるだろう。サティルニアは温かい国だ。住みやすいし文化水準もずっと高い。何も、この国にこだわらずともいいじゃないか。君の能力は閉鎖的なこの国よりも、自由なサティルニアでこそ如何なく発揮されるのではないのか」 「イサーク」  シュジェールは、静かな声で男の名前を呼んだ。 「その厚意はありがたい。けれど、逆を考えてごらんよ。この国の宰相になれるからと言われて、君はここに骨を埋められるかい?」 「わかっている」  いつになく真剣な声でうなずき、イサキオスの両腕はシュジェールの身体を強く、骨が砕けそうになるほど抱きしめた。 「あ、苦し……」 「苦しみたまえ。私はもっと苦しい」  シュジェールは痛みに呻きながらも、笑ってしまう。  「笑ったね」 「だって、おかしいことを言うからさ」  見つめ合うと、イサキオスが微笑む。 「私の七色のイリス、君が笑うと、この世界にいくつもの虹の橋がかかるみたいだ」  シュジェールには、その情景を思い描く能力がなかった。それを、少しだけ残念に思う。 「イサキオス、君はけっきょく……」 「最後までしなかったってこと?」  シュジェールは今さらだが、赤くなった。  二日間、シュジェールは弄ばれ続けたがイサキオスが宣言したようなことはされなかった。かわりに、イサキオスは幾度もリュシアスを抱いたし、ドゥールにリュシアスを獣のように這わせて抱かせたり、立ったまま突き上げさせたりするのを見せた。  もちろん、いつものようにシュジェールにきつく足を閉じさせてその合間にイサキオス自身を行き来させた。そうすると、シュジェールも彼の激しい律動に自分の欲望を募らせて、一緒に高みに上れるのだ。  紅い長椅子に滴る白濁した欲望の証しを見せられ、シュジェールは幾度もいやだと首をふった。けれど、すぐにまた面白いように興奮してしまう。とくに後ろに同時に触れられると弱かった。羞恥心も何もなく、それ以上を欲しいと言いそうになった。 「今、して欲しいの?」  イサキオスが甘えるように聞いてくる。  シュジェールはうつむいた。最後に別れるときくらい、してもいいような気がした。 「あんなに恥ずかしいことをされて、もっと欲しいなんて、君は欲張りだね」  イサキオスがくちづけながら言う。シュジェールの白い肌は全身薔薇色に染まっていた。 「でも、してあげないよ」  イサキオスはトーガを床に敷いてシュジェールを転がし、指を後ろに這わせながら言った。それだけで、シュジェールはうすい背をそらし、腰を揺らして高い声をあげた。 「どうしてもして欲しかったら、私のところまでおいで」 「な……」  絶句したシュジェールを抱き上げてひっくり返した男は、その背に覆いかぶさりながら言った。 「潔癖な君がそうそう他の男にここを許すとも思えないしね。リュシアスにはここに指一本でも入れたら、その指だけ残して順に切り落として骨も残らずばらばらにしてやると脅してある」 「ひっ……あぁ」  イサキオスの舌がシュジェールの背をゆっくりと、下へ、下へと這っていく。 (この男なら、本当にやると言ったらやるからな……) 「あ、イサーク、なら、もう……」 「自分で張り形を使う? そんなこと許せないだろうね。この国には自涜の罪があったね。夜毎、私を思い出して罪を犯すといい。王国きっての侯爵令息が男同士の戯れに溺れて身を持ち崩すなんてことになる前に、私のところにおいで」  濡れた舌が音をたてて秘所を舐め、イサキオスの器用な指は張り詰めた前を容赦なく擦りあげた。シュジェールは自分の拳を噛んで声をこらえていると、イサキオスが自分の白い手を彼の口に埋めた。 「あ……」 「血が出るまで噛むといいよ」 「ひぃ」  いつもどおりシュジェールの膝を閉じさせて、イサキオスは天を突くように怒張したものを間にゆるゆると挿し入れた。 「んっ」  汗に濡れた腿に熱い塊が触れて、シュジェールは身体を震わせる。イサキオスはその肩を押さえつけて這い蹲らせると、ゆっくりと腰を揺らしはじめた。 「あ、あ」  互いのものが擦れあう感覚に、シュジェールは堪えられずに声をあげそうになる。イサキオスの唇はシュジェールの首筋を愛撫し、胸の突起を指でころがしている。そこだけでも気が狂いそうに熱いのに、イサキオスのものは炎の剣のようにシュジェールの足の合間を突いて擦り上げ、捏ねまわし続ける。 「いや、あん、イサ……ク、あ、あああ」 「だめだよ。声をあげちゃ、聞こえてしまう」  そう言うイサキオスでさえ、荒い息遣いは獣のようだ。 「熱いね。どうしたの。いつもより感じてる?」 「や、どう」  どうしたのかわからない。でも、シュジェールのなかで何かが変わったようだ。次から次へと、欲望の滴りが床を濡らし、そのぬめりがまたイサキオスのものを煽り、性感を高めていく。  イサキオスがトーガの端を片手にし、シュジェールのものと自身のものをくるんで下腹を押さえた。やわらかな羊毛の生地越しにしごかれ、布地が濡れていく感触に震えた。 「あ、あん……、あ、お願い、もうや」  やめてほしい。  初めて、心の底からそう感じた。今までにないほど興奮している。 「いやだ。やめない」  男がこわいような声で囁く。 「いや、いやっ……やぁ」  シュジェールはトーガを握りしめて首を振った。嫌だと言う声は、もっとと欲しがる声だ。どこかで意識はそう感じたが、身体はどんどん高まっていく。 「静かに。本当に聞こえてしまうよ。私の指を舐めて。噛んでもいいから」  シュジェールはとうとう自分の口の中に、イサキオスの血の味を感じ取る。それくらいきつく、声をあげないように噛みしめていた。 「はっ、あ、あ……、あ、あ、あ」  それでも、短く高い声がとめどなく漏れてしまう。絶頂の前触れに、シュジェールは肌を真紅に染めて必死にそれを堪えた。 「いいの? 早すぎるよ。凄い感じてるんだね」  イサキオスの声が甘く耳朶を揺らす。濡れた音が響き、うすい尻に男の腰骨が痛いほど打ちつけられている。重なり合った欲望がイサキオスの手のなかで揺れながらぶつかり、擦りあわされる。愉悦と呼ぶには強烈すぎる刺激だ。 「もう……あ、あああ」 「シュジェール、愛してる。私を忘れないで」  その囁き声さえ、もう聞こえないくらい遠くに、シュジェールは達していた。 「ひ、ぃああああ……」  シュジェールの高い悲鳴が、イサキオスの唇で塞がれる。  永遠に続くような失墜感に、シュジェールは意識を失くしていた。

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