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3 現在(三上視点)
今朝からSNSを開くと「お誕生日おめでとうございます」と機械的に祝われている。
「全然嬉しくねぇ…」
画面を見つめてため息を吐く。
今日で37歳か…
去年辞めた新入社員がパワハラ課長を労基に訴えたため、俺の悩みの種だった上司は遠い地に左遷されていった。
せっかく悩みの種が消えたというのに、繰上げ式で俺が課長になってしまった。
しかも、大した役員手当もつかないのに責任と仕事ばかりが増えた。
もう辞めてやろうかとも思ったが、この歳で独身のΩが大した職につけるとも思わないので思いとどまる。
「三上さ…、課長、おはようございます」
「ああ、片瀬か。いいよ、役職つけなくて」
「すみません、慣れなくて。
あ、37歳おめでとうございます」
「…」
わざわざ歳をいう感じ…、そして讃えた胡散臭い笑み…、こいつバカにしてる。
俺は生意気な後輩…、いや、今は部下になるのか。
とにかくムカつく、しごできなエリート若者αを軽く睨む。
昔はパワハラ課長にいびられて不貞腐れて「三上さん三上さん」って俺の後ろをついてくる、可愛いピヨピヨ社員だったのに…
たった3年でこんなにふてぶてしくなるとは。
人は変わるもんだな。
「なんですか?心から祝福してるのに」
「嘘つけよ」
「誕生日ですけど夜予定あるんですか?」
ニヤニヤしながら聞いてくるのがムカつく。
この歳で独身、パートナーなしだから、予定がないと決めつけやがって。
「ある」
俺がそう言うと、やつは驚いた顔をして「え?何があるんですか?」と食いついて来た。
「…、得意先の接待」
仕事かよと笑われるかと思い、俺は小さい声で吐き捨てた。
が、笑われることはなかった。
「まさか、A社ですか?」
真顔で奴が言う。
こいつが移動したての頃、俺がA社の担当者に言い寄られていたことを、こいつは今も覚えていて悉くA社関連の話は警戒してくる。
「なわけないだろ。今は片瀬の担当なんだから、片瀬を差し置いて接待なんかしねぇよ。
D商事だよ」
「…、ちっ。次から次へと…
俺も連れていってください」
「はあ?無理に決まってるだろ。
俺の担当だし、そもそも今日の今日でうちからの参加者の人数増やせなんて言えるわけないだろ」
「じゃあ、それが終わったら俺に連絡ください。迎えに行きます」
冗談言うなと思ったが、こいつは真顔だ。
片瀬はなぜか俺をΩ扱いしてきて、こんなおっさんなのに飲み会や接待の度に送ろうとしてくる。
自分が襲われるかも、なんて自意識過剰になるのも、部下に送迎されるのも嫌すぎる。
そもそも、こんな歳で浮いた話がないよりは、ワンナイトでも誰かに相手してもらった方が良い気がする。
「迎えなんかいらねぇって言ってるだろ。
お前、若いんだし自分のために時間を使えよ」
俺はそう言って仕事を始める。
奴は何か言いたげにじっと俺を見ていたが、無視していたらため息を吐いて「取引先に行って来ます」と外出した。
何が楽しくて誕生日に接待なんかしなきゃいけないんだと思ったが、
めでたくもない日なんだから、いつも通り過ごす方がいいだろうと腹を括った。
それにしても、毎日仕事に忙殺される日々だ。
片瀬が仕事をどんどん片付けてくれるから、なんとかなっているようなものだ。
ムカつく後輩だが、いなくなられたら困るな。
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