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6 臭いと匂い

部屋に入るやいなや、「何も無い…」とつぶやいて、ソファに勝手に座る片瀬。 本当に遠慮ってものがねぇな… 何も出さないわけにもいかないかと、俺は冷蔵庫にあった2ℓのお茶をグラスに注いで出した。 「お茶、あるじゃないですか」 「…、本当に生意気だなお前は」 「で、何があったんですか?」 ソファは2人がけで、隣に座るのも落ち着かないので、俺はラグの上に座っていた。 正面からじっと見下ろされて、普段の茶化しが通用しないなと思った。 「別に…、C商社の常務に乳触られただけ」 「はぁ???」 「な、大したことないだろ。 わざわざ迎えに来なくなって…」 目を剥いた片瀬に、俺は、たったそれだけなのに被害者ヅラしたことを後悔した。 おっさんがおっさんと乳こねくりあっただけ。 自分が情けなくて泣きそうだわ。 「あんた、Ωの自覚あんのかよ!? そのまま噛まれてたらどうすんだよ!」 急に大声で攻める片瀬に俺は驚く。 めちゃくちゃ怒ってる!? 「ちょっ、片瀬、落ち着け。 夜だし、近所迷惑だから!」 「近所なんて知るかよ。 37にもなってなんでそんな貞操観念薄いんだよ」 「はぁ?? むしろ、37なんだから、どうなってもいいだろ。 迎えに来てくれたのは助かったけど、プライベートは片瀬に関係ないだろ」 「じゃあ、そのおっさんに番われても良かったのかよ?」 「よ…、くはないけど、 別にワンナイトくらい…」 「αとΩじゃワンナイトくらいで終わらないって分かるだろ!」 「わからねぇよ! ワンナイトにもなったことがないくらい 俺はモテないんだから!!」 そこで片瀬が黙り込み、お互いに睨み合う。 てか、俺なんで後輩にタメ口で怒られてんの? そんなにαが偉いのかよ。 そりゃ、顔が良くて、仕事ができて、まだまだ若いαに俺の気持ちなんて分からないよな。 何もしなくても結婚できそうだしな。 恋人も切らしたことないんだろう。 俺は、自分より10以上も上のおっさんくらいしか、相手にしてもらえないんだぞ。 悔しさや情けなさでじわりと視界が滲む。 やはり、酒を飲みすぎたのかもしれない。 37歳、大号泣なんて絶対嫌だ。 「俺のこと、知りもしないで偉そうに説教すんな」 最後の方は声が震えた。 「ちっ…」 片瀬が舌打ちしたかと思ったら、徐に立ち上がり、抱きしめられた。 抱きしめられた?? 「えっ…、は?」 混乱していると、片瀬が「くせぇ」と呟く。 「嗅ぐな!!しょうがねぇだろ、おっさんなんだから!」 「違う。ジジイのαの臭いがついてる」 「お前それ常務に絶対言うなよ。 って、おい!なにして!?」 ガバリと片瀬が俺を離したかと思ったら、急にワイシャツを脱がし始めた。 ちょ、なんで俺の服を脱がせてるんだ!? 抵抗も虚しく、俺はワイシャツを剥がれた。 上半身下着姿の俺を片瀬が再度抱きしめた。 「だいぶマシになりました」 すんすんと首のあたりを嗅がれて、俺は顔に熱が集中する。 「おまっ…、なんでお前がセクハラすんだよ! やめろ!嗅ぐな!」 っていうか、抱きしめられてるせいで、俺も片瀬の匂いを強く感じるんだけど… ムカつく、いい匂い…

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