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9 裏切り
そして何度目かの食事の時にトゥイちゃんから告白された。
勿論、俺は嬉しかったが、国籍は違うし、彼女はβで俺はΩ…、そして何より、年齢が10も違う。
いかにトゥイちゃんにとって、この交際が不利であるかを説明したが、「関係ナイ」と言われた。
年齢は気にしないし、第二性も関係ない。
国籍に関しては、正しい言葉で愛を伝えたいのでこれからも教えてほしいと言われた。
そんなトゥイちゃんの気持ちに絆されるのに時間はかからなかった。
最初は金銭目的とか、ビザ目的かとも思ったけれど、食事代はほぼ俺が出すにしても、たまには「給料モラッタから」と言って割り勘もあったし、金銭をせびられることもなく、結婚を迫られることもなかった。
デートも公園だったり、ショッピングモールだったり、お金を使うこともない。
ただ、強いて言うならば体の関係は一切なかった。
でもそれは別に構わない。
俺自身、Ωで、女性との経験は皆無でどうリードしていいか分からないし、若い子に自分の体を晒すのは生き恥すぎる。
そんな感じで、トゥイちゃんとの時間は穏やかに過ぎていった。
そろそろ、結婚を視野に入れてもいいのかな、と思っていた。
ここのところ、トゥイちゃんと会う週末を過ごしていたが、今週は珍しく予定がなかったので、冬服でも買おうかとショッピングモールに来ていた。
今までは見せる相手もいなかったので、こんな風に服を見るのは新鮮な気持ちだ。
ふと、フードコートを覗くと、見知った人影…、トゥイちゃんがいた。
もしかして、トゥイちゃんも服でも見に来たのだろうかと、嬉しい気持ちになり、そちらに近づく。
と、彼女の目の前に座っていたのは若い男だった。
頭をよぎる「浮気」の文字。
何もなかったことにして、帰ってしまおうかとも思った。
けど、もしかしたら兄弟とか友達かもしれないし、何より、俺はトゥイちゃんの彼氏なんだからと、謎の自信が湧いてきた。
かといって、その男性の前で声をかけるのは憚られて、少し様子を見る。
幸運なことに、その男はトイレに行くためか、席を外した。
俺は慌ててトゥイちゃんに駆け寄った。
「トゥイちゃん!」
「…、アキ?どうして…
まさか、ワタシをつけてキタ!?」
最初は驚いた顔をした彼女だが、次の瞬間には鬼の形相になっていた。
「ち、違うよ!
たまたま買い物してたんだよ!
えっと…、さっきのは友達かな?」
何故か俺の方が委縮している気がする。
昔からそうだ。
相手の浮気を詰めるとき、なぜかいつの間にか形成が逆転してしまう。
「カレシだ」
悪びれもせずにトゥイちゃんが言った。
「いや…、じゃあ俺は?」
「そもそも、アキは37歳でワタシ27歳!!
ヘンだと思わなイ!?」
そんなこと、一番最初に俺から確認したのに。
「それでもいいって…、トゥイちゃんが…」
「ワタシ、言ってナイ!
アキと会うのはコトバのベンキョのため!
おかげでカレシ出来たから、関わらないデ!」
そう言って睨まれて、俺は反論が出来なくなる。
まさか、そっちで利用されているとは…
てか、それなら最初から付き合う必要なんて無かったじゃないか…
恋人になんてならなくても、日本語くらい教えたのに…
「分かった。今までありがとう。
もう関わらない」
俺はそう言って踵を返した。
その後ろで
「今の誰?」「おミセのオキャクサン」「え!?大丈夫?」
みたいな会話が聞こえてきた。
お店のお客さんね…
40歳までに結婚できるかもしれないという淡い期待を抱いていた。
こんな底辺の男が夢を見られただけで幸せだったと思うべきだろうか?
でも俺は、こんな気持ちになるくらいなら希望なんて抱きたくなかった。
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