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10 大失恋

1人で家に帰るのも虚しくて、俺は一度きたことのあるバーに入った。 ここのバー、確か飯もあって1軒目からでも行けるんだよな… あれ?誰に教えてもらったんだっけ? 得意先の人とかか? 呆然とした頭でそう考えながら、俺は強めのカクテルとパスタを頼む。 こんな強いの、普段は飲まないけれど、空きっ腹じゃないならセーフだろう。 そんなことよりもさっさと酔ってしまいたい。 グラスが空くたびにどんどんと新しいお酒を注文する。 値段のことなんか気にしない。 だって今日の服を買う金が浮いたし、唯一の交際費であるトゥイちゃんとのデートは今後一切ない。 どこからが酔っていて、どこまでがシラフだったか覚えてない。 ボーっとする頭で、グラスの汗を指でなぞり、次の注文をしようかと片手を上げたところで、肩を叩かれた。 「三上さんっ…、って、どんだけ飲んでんですか!?」 「あれぇ?片瀬ぇ??」 「酒臭いし。ほら、帰りますよ」 「なんれっ!帰りたくない!! 1人で帰んのやだぁ」 「うわ、だる…」 「てか、なんれ片瀬がいんの?」 「ここ、俺が紹介した店ですから。 マスターがあんたが潰れたのを見て、心配して俺に連絡くれたんです。 全く…、貴重な休みなのに」 そういえば、片瀬の行きつけだって教えてもらった気がする。 俺、まじで片瀬に迷惑かけすぎだよな。 もうこの店来れねぇ… ここで駄々をこねるのも悪いと思い、マスターにお会計を頼む。 何故か出された伝票を片瀬が受け取り、カードを渡した。 「は??なんで片瀬が払うんだ?」 「…、俺の支払いだと少し安くなるんで。 いいから、もう行きますよ」 マスターからカードを受け取った片瀬は、俺の鞄と腕を掴んで店を出た。 「あそこ、結構αの客多いんで、 Ωがあんなグダグダに酔うのはやめた方がいいですよ」 「そうなのかぁ… でも俺は別に、誰に持ってかれようと構わないけどな」 「そうやっていい歳こいて自暴自棄やめて下さいよ。 てか、彼女出来たんじゃないですっけ?」 「ああ、それなぁ… 振られちまったんだよぉ。笑えるだろ?」 俺がヘラヘラと笑って、腕を掴む片瀬を見上げる。 が、片瀬は全く笑っておらず、「どういうことですか?」と俺を冷めた目で見下ろす。 「あ〜…、えっとな…」 それで、今日の出来事を話した。 「で、俺みたいな10も上の男が、付き合えるわけないでしょって言われたぁ」 へへへっ、と笑うが、じんわりと目に涙が浮かんだ。 まじで情けない。 こんな経験、片瀬がするわけないだろうな。 「最悪っすね」 「だよなぁ。 信じちゃった俺、最悪ぅ」 「その女が、最悪です。 三上さん、泣いていいですよ」 「はぁ?誰が泣くかよ、失恋ごときで」 そう言ったが、俺は腕を引かれて、道の真ん中で抱きしめられた。 「はぁ!?ちょっ!ここ、外!!」 「大丈夫です。三上さんの顔は隠れてるので」 「いや…」 確かに俺の顔は見えないだろうけど、背が高い片瀬の顔は隠せていない。 ぽんぽんと背中を優しく叩かれて、酔いもあってか俺はぐすんの鼻を鳴らした。 「俺ぇっ、本当に次こそ、ちゃんと結婚できると思ったんだよぉぉ。 騙されてさっ、マジださいぃうぅぅ」 思いがけず大号泣をした。 37歳になって、しゃくりあげながら街中で泣くとは思わなかった。 しかも、部下の腕の中… その間「三上さんは悪くないです」とか「災難でしたね」とか宥めながら、片瀬は抱きしめてくれた。 マジでいい匂いがする。 ある程度泣くと、急に冷静になった。 あれ?俺、何してんだ… 「あ…、片瀬?落ち着いたから、大丈夫だぞ?」 「そうですか」 腕が離れる。 やべぇ…、片瀬のパーカー、俺の涙とか涎とかでびちょびちょなんだけど… 「わ、悪い。クリーニング代とか…、あ!あと、さっきの会計!」 俺がワタワタと財布を引っ張り出すと、片瀬は手で制した。 「いいすよ。失恋祝いってことで」 「ええ、そんな悪い…って、何祝ってんだ、お前!!!」 俺が突っ込むと、片瀬は笑った。 「いつもの三上さんっすね。 もうちゃんと帰れますか?」 「…、あ、ああ。ありがとうな」 ツッコミどころはマシマシだけど、それもこいつの優しさかと甘んじて受け入れた。

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