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11 忘年会の知らせ

失恋の痛みもそこそこに、次から次へと仕事が舞い込んで、俺はすっかり異性の恋人がいたことすら忘れかけていた。 ある朝、早めに出勤し、昨日やり損ねた仕事を片付けていると若い社員が声をかけてきた。 この子は確か…、今年総務に来た新入社員だ。 若いなあ… 「三上課長、27日、忘年会するんですけど」 「えっ、もうそんな時期!?」 「今日からもう12月ですよ~。 三上課長は参加で大丈夫ですか?」 「ああ…、あ、でも俺は今回は…」 12/27…、次のヒート予定日の前日だ。 少しずれこむと被る可能性があるんだよな… 「ええ!?参加できないんですか!?」 新入社員ちゃんが大げさな声を出す。 そういえば、うちの忘年会はその年の新入社員たちが幹事をするから、参加率が低いと困るんだろうな… 可哀想だけど、ヒートトラップになってしまうよりはマシだ。 すると、偶然通りかかった部長が「三上君、参加しないのか?」と声をかけてきた。 「え、ええっと…」 「課長以上の役員は全員参加だぞ。 それに三上君は独身なんだから…」 「部長、それはセクハラですよ」と新入社員が庇ってくれたが「でも、参加していただけたら嬉しいです…」と付け加えた。 まあ、いったん参加にしておいて、もしもヒートが来そうだったら直前に断ろうと思って「じゃあ、参加します」と言った。 以前なら、ヒート期間だろうが参加していたけれど、最近は休暇をとるくらいに重くなってきている。 37歳になってあり得ないと思い、抑制剤を貰うときに医者に言ったら「魂の番でも近くにいるんじゃないの?」とテキトーに返された。 「そもそも、そのくらいの重さが普通なんだから、むしろ健康的だと喜ぶべきだ」とも言われてしまって、俺は閉口した。 「じゃあ、これ、忘年会の詳細になります。 よろしくお願いします!」 そう言って、新入社員は俺にイラストがふんだんに使われた「忘年会のお知らせ」というチラシを手渡して、営業のフロアを後にした。 忘年会か…、おそらく、全社員が参加対象なのだろうな… 数名の同期の顔を思い出して、俺は少し気持ちが揺らいだ。 まあ、行くと言ったからには逃げようがないと思い直し、紙を一通り確認してデスクの左上に押しやった。 そろそろ始業時間になるし、その前に珈琲でも買いに行こうと席を立ち、目当てのものを買って席に戻ると、出社した片瀬がデスクに置いたはずのチラシを手にしていた。 「お…はよう…」 近づくにつれ、片瀬がチラシを睨むように眺めていることに気付き、声が小さくなった。 「はざます。行くんですか、これ」 その表情のまま、見上げられて、心臓がドキッとする。 無駄にいい顔しやがって… 「ああ、うん。新入社員に泣きつかれちゃってな」 「ヒート、近くないですか?」 「ああ。…、え、なんで俺の周期知ってんの?」 「…、自分の上司が休みそうな期間を把握しているだけです」 「ああ、そっか。 片瀬は行かないのか?」 「ベタベタ触ってきてうざったかったんで断りましたけど…、三上さんが行くなら参加にしてきます」 そう言って、チラシを俺の机に戻した。 そりゃあ、自分の上司がヒートを飲み会で起こしたら嫌だろうな。 片瀬というストッパーがいるなら心強いか。 「まあ、本当にヒートが来そうだったら、直前にキャンセルするよ」 「何を当たり前のことを言ってるんですか? そもそも、普通の神経してたら参加しません」 耳が痛いな…

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