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12 片瀬の揶揄
就業時間になり、今日は久々に提示で帰れそうだとホクホクしていると、苦虫を嚙み潰したような顔で片瀬が帰社した。
「取引先でなんかあったのか?」と聞くと「いえ、業務に問題はありません」と言った。
じゃあ、一体何なんだ?と片瀬を観察する。
右手に例の忘年会のチラシが握られていた。
「ああ、忘年会、参加って言ってきたのか」
「…はい」
うんざりしたようにチラシを机に置いた。
その右上には可愛らしいメモがクリップ止めされている。
「なんだ…、それ?」
俺がメモを指さすと、片瀬はそれを乱暴にむしり取り、シュレッダーにかけた。
パッと見た感じ、ラインかSNSのIDに見えたが…
「本当に片瀬はモテるよな。
なんで彼女いないわけ?」
「俺は結構誠実なので、好きな人としか付き合いません」
「付き合ってみたら、好きになるかもしれないだろ」
「じゃあ、三上さん、俺と付き合ってくれますか?」
「は…」
俺は奴の真意を探るべく、ジッと顔を見る。
片瀬も探るような目でこっちを見ていた。
そうか…、こいつは自分の都合の悪い話題を出されたから、逆に俺を揶揄っているんだなと合点がいった。
「お前、そういうのはもっと可能性が高そうなやつとやれよ。
っていうか、上司を揶揄うな」
俺が半笑いでそういうが、片瀬は真顔のまま、試すようにこっちを凝視している。
「俺、定時で上がれそうだから帰るぞ」
俺はそう言って鞄を持って立ち上がった。
「じゃあな、お疲れさま」
そう声をかけて早足にフロアを抜け、エレベーターに乗り込んだ。
幸い、誰も載っていなかったので、俺はその場にへたり込んだ。
あいつの真顔、心臓に悪すぎるって。
揶揄うにしたって、限度ってものがあるだろ。
あんな態度取ってたら、そりゃ若い子たちはコロッといっちゃうだろうよ。
俺がおっさんで本当によかった。
きたる12/27。
片瀬との「俺と付き合いますか」騒動後、特にあいつから何か言ってくるわけでもなく、いつも通りに過ごしていた。
やっぱ、からかっただけだったんだ。
本気にしなくてよかったと、ほっとした。
いつもの日課通り、紙業前に自動販売機に向かうと、例の新入社員が泣きついてきた。
「三上課長~!
今日、営業2課の課長が、インフルでお休みらしいです~。
三上課長は来られますよね?」
「ああ、うん」
今朝、ヒート前のだるさも熱っぽさもなかったので、参加する気でいた。
「良かったです~。
営業課長がお2人とも欠席だと寂しいので。
それに、片瀬先輩、三上課長が不参加なら行かないって言っててぇ」
いや、課長が2人ともどうこうより、絶対そっちが本音だよな。
片瀬の奴、俺を巻き込むなっての。
「ちょっと手名付けるのにコツがいるやつなんだ。
懲りずに仲良くしてあげて」
俺が苦笑しながら言うと、「は~い」と彼女は言い、「それでは」と総務部へ戻った。
こんな調子じゃ、あいつ、社内で孤立しないか?と少し不安になった。
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