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13 同期たち
こういう日に限って、退勤時間ギリギリに厄介ごとが舞い込む…
俺が息を切らせて会場に着くころには、開始時間を30分すぎていた。
忘年会会場は、社員ほぼ全員が入れるように、ホテルの宴会場を貸し切っていた。
広い会場を見渡して、幹事の新入社員に声を掛けた。
「遅くなってすまない」
「三上課長ぅ~!よかった!
危うく、片瀬先輩が帰るところでしたよ!」
新入社員は涙目でそう言うと、少し離れたテーブルに手を振った。
「片瀬せんぱーい!課長来ましたよー!!」
そんな大きな声で言わなくても…、と思いつつ、彼女が手を振った先に目をやる。
仏頂面の片瀬が、若い女性社員に囲まれている卓があった。
片瀬と目が合うが、あいにく彼の周りは大繁盛していたので、俺は空いている席に座った。
「三上課長、遅刻ですかぁ?」
たまたま隣の席になってしまった経理部の同期に声を掛けられた。
「ああ、うん。急に仕事が入ってしまって」
「ふーん。課長様は忙しいんだな」
「いや…、まあ」
俺には同期と呼べる奴が複数人いる。
未だに、度々同期会なるものをやっているらしい。
勿論、俺も参加していた。
が、繰り上げ式で37歳という年で課長に昇進したことが彼らは気に食わないらしく
同期会に行くと、「課長様だもんな」とチクチク言われ、嫌気がさして行くのを辞めた。
まさか、たまたま目について座った席が、同期だとは…
「遅れた分、ペナルティで飲むのが決まりだろ?」
そう言いながら、彼は俺のグラスにビールを注ぐ。
遅刻したり、持ってきたお金が足りなかったり、酒を溢したり、粗相をしたやつはその場の誰よりも飲まなくてはならないという内輪ノリのルールだ。
「そんなルールあったな…
でも俺、営業だけど強くないんだよ」
「はあ?関係ないって。
それとも、部下と酒は飲めないってか?」
ヘラヘラとしているが、目が笑っていない。
「部下じゃなくて、同期だろ」
「課長と主任なら、俺は部下だろうが」
「いやいや、名ばかりだって」
「名ばかりでも課長になれねぇんだよ、こっちは」
吐き捨てるようにそう言われて、俺は何も言い返せず、グラスに口をつけた。
お酒の味は嫌いじゃないんだけどな…、すぐに酔ってしまって酩酊するのが怖い。
が、同期の圧に負けてしまい、来る酒を片っ端から飲んでいった。
ラストオーダーを聞かれる頃には、トイレに行くのもままならなくなっていた。
「三上さん」
誰かが注ぎに来たワインのグラスを傾けていると、声とともにグラスを奪われた。
「あ…、おしゃけ…」
「またキャパ超えて飲んだんですか。
こんだけ酔ってればもう満足したでしょ。
ほら、帰りますよ」
「でも、飲まないとっ」
「なんのために?」
「粗相をしたら、飲まないとだから…」
「なんすかそれ?いいから、行きますよ」
ぐいっと腕を引かれて、立ち上がらせられる。
が、足に力が入らずにそいつに抱き留められた。
あ、この匂い…、片瀬だ。
「片瀬の匂いだぁ」
「そうです、片瀬です。
ほら、歩けないならおんぶしちゃいますよ?」
「おんぶ」
「…、三上さんが言ったんですからね」
そう言って片瀬は俺を椅子に座らせると、腕を彼の首に回させて、俺を背負った。
「目線高くなった!」
俺はふわふわする頭で、普段よりも高い視点に浮かれる。
「ああもう、はしゃぐなって。
見られてるんですから、ちゃんとしがみついて顔隠した方がいいんじゃないですか?」
なんのことだかピンとこなかったが、とりあえず、しがみ付けばいいのかと、片瀬の頭に顔をうずめる。
「なんか騒ぎになってると思って戻ったら、三上かよ。
やっぱり、そうやってαの部長に媚び売って昇進したんじゃないの?」
さっきの経理部の同期だ…
そういう噂がされていたことは知っていた。
営業部は、俺や部長の様子を知っているから、あり得ないとわかっているが、他部署の人(特に同期たち)にはそう囁かれていた。
「違う」と言いたかったが、信じてもらえる状況ではなく、ぐっと片瀬に回した腕に力を込める。
不意に、「ガンッ」という大きな音がして思わず顔を上げる。
片瀬が近くのテーブルを蹴ったようだった。
お、お前…、ホテルの備品!!と指摘する前に片瀬が口を開いた。
「俺の尊敬する上司を馬鹿にしないでもらえますか?
それに、うちの課長ってのは、そんなことでなれるくらい甘い役職なんですか?」
「それは…」
「嫉妬するのは結構ですけど、会社自体の品格を下げるようなこと、外で言うのは辞めてください」
「…」
「失礼します」
何も言えないでいる経理主任の横をすり抜けて、片瀬はホテルを出た。
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