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20 提案

来客対応から戻ると、片瀬は外回りに出ているようだった。 なんとなくホッとする。 まあ、夜には会うわけだけど… どうやら奴は直帰のようで、顔を合わせることなく業務を終える。 少し残業をしてしまった… 手ぶらでお邪魔するのも悪いと思い、一応コンビニで酒やつまみを買う。 酒を飲むような気分にもならないか…? いやでも、宅飲みしようくらいのテンションの方が良い気がする! 俺は深呼吸をしてインターフォンを鳴らした。 っていうか、こいつの家のインターフォン鳴らしたの初めてだ。 いつもは一緒に来てたから。 「どうぞ」と機械を通した片瀬の声がして「お、お邪魔します」と言ってエントランスを抜ける。 てか、マジでセキュリティ良すぎるし、同じ職場の人間なのに良いところ住みすぎじゃないか? 再び、部屋のインターフォンを鳴らすと、片瀬が出てきた。 風呂上がりのようで、髪が少し濡れ、ノーセットにスウェットと言う姿だった。 「あ、悪いな。少し残業があって…」 俺はドギマギしながら言う。 初めて恋人の家に来た、付き合いたてのカップルかよ。 「いえ。忙しいのにありがとうございます。 上がってください」 「お邪魔します…」 片瀬に続いて部屋に入る。 前より少し散らかったような… リビングにつき、ソファを勧められたので座ることにした。 てか、よく見ると家具も結構、お金がかかってる気がする。 「あ、酒とか色々買ってきたけど…」 キッチンに向かおうとしているであろう片瀬に声をかける。 「ありがとうございます。 じゃあ、お皿とグラスだけ出します」 食器だけを持ってきた片瀬が俺の隣に座る。 今までは席一個分とか、反対側とか、少しスペースを空けて座っていたのに… 濃くなった片瀬の匂いに心拍数が上がる。 「何から飲む?一旦ビールか?」 空気に耐えられず、明るい感じで言って片瀬を見ると、俺の顔に穴が開くくらい見ていた。 「あ、え?別のがいいか?」 気づかないふりをしようとしたが、缶を奪われ、テーブルに戻された後に、指を絡められた。 「か、かたせっ」 名前を呼んで咎めようとしたが、唇を奪われ、食べ尽くされるみたいに貪られた。 ムカつくけど、気持ちが良くて、本気で拒めない。 ようやく離された頃には、俺は肩で息をしていた。 「な、なんだよ、急に」 「すみません。自分のテリトリーに三上さんがいると思ったら、耐えられませんでした」 「…、そういうリップサービス要らないって」 俺が本気でお前に堕ちたらどうすんだよ! お前だって鬱陶しいと思うだろうし、挙句、捨てられたら俺は目も当てられない痛いおっさんになる。 「サービスじゃないです。 三上さん、俺の番なんですよ?」 「αにとっても厄介なんだな」 俺がそう言うと、片瀬は顔を歪めた。 本能のせいで、俺みたいなのにキスしたくなるなんて、地獄だろうが。 俺にとってはその相手が若いイケメンだからいいけど、片瀬は可哀想だ。 「わざわざ家に呼んだってことは、片瀬は何か俺に話があるんだろ?」 俺は気を取り直して聞いた。 ついでにビールをグラスに注ぐ。 1つを彼に渡した。 片瀬はそれを受け取ると、「三上さん、俺たち、結婚しましょう」と言った。 ビールを口に含んでいた俺は、思わず吹き出した。 「はぁ!!?」 デカい声が出る。 片瀬は溜め息を吐くと、ティッシュで俺を拭いた後、テーブルや床を拭く。 「わ、悪い。でも、流石にそれは飛躍しすぎじゃないか!?何もそこまで…」 「俺は本気です。結婚して、責任を取らせてほしいんです」 「だから、良いってば。責任とかは! まあ、ヒートの時とかに、お前に好きな人ができるまでは面倒見てほしいけど」 「は?」 片瀬に睨まれて、俺は焦った。 えっ、結婚はいいけど、ヤるのは嫌ってこと!? こいつの許容の基準何? 「あ、嫌なら別に薬でなんとか…」 「三上さんにとって、俺ってちんこしか価値ないってこと?」 「はあ!!?」 え、なにそれ。 俺が最低なこと言ってる感じになってんの!?

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