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24 初滑り

「これ、本当に合ってるのか?」 着慣れないウェアで動きづらい上、足には自由の効かない靴と板… 同じ装備のはずなのに、片瀬は様になっているが、俺は着られている気がする。 「はい。似合ってますよ。 似合うだろうなってデザインのを借りましたし」 納得のいかない顔で片瀬を見ると、「はい」と手を差し出してきた。 「え?」 「まずは平地の移動ですけど、俺が引っ張るので」 手袋越しだけど、こんなに人がいる場所で手を繋ぐの恥ずかしくないか!? とは思ったものの、周りの人々はそれぞれ滑ったり、移動してたりして、止まっている方が変かもしれないと思い直して手を取る。 それから、数回、平地の移動の仕方を教えてもらい、なんとか1人で動けるようになった。 「ほら、1人で動けるようになったし、俺はもう満足…」 「じゃあ、リフト乗りましょう」 もう終わりにしようと片瀬に言おうとしたら、そう言われ、恐怖に震えた。 え?あれに?乗る? いや、乗れたとして、仮に乗れたとして、ここまで降りてこなきゃいけないよな? 下から見た感じ、果てしない距離に見えるが… 「無理だろ。あれは絶対無理!」 「最初のリフトはかなり緩やかなところに降りるので、三上さんもいけますよ。 むしろ、初心者も楽しめるようなスキー場選んだので!」 ふと、斜面を見上げると、初心者だと言っていたΩの女の子がぎこちなくカーブしながら滑っていた。 確かに、あの子も滑れているけれど…、彼女は25歳だろ? 俺には無理だろ! 「無理だったら、俺が担いで滑りますから! それに、リフト楽しいですよ?」 「う…」 リフトという乗り物に少し憧れがあった。 そこまで言うなら…、1回くらいは乗ってみるか? 俺は渋々頷いた。 片瀬は笑顔になって俺の手を引いて連れて行く。 確かにリフトは楽しかった。 が、降りるの怖すぎだろ。 片瀬に引っ張られなかったら、リフトを止めてしまうところだった。 初心者コースには子供達も沢山いるため、もたついている所を見られるのは恥ずかしい。 片瀬のアドバイスを聞きながらなんとか滑ってみるが、やはり怖くて、尻をつけながら滑る。 とんでもなく長い時間をかけて、ようやく下まで戻って来れた。 俺につきっきりで、片瀬もつまらないだろうな。 「もう一回行きます?」 そう聞かれて「いや…」と断ろうとしたところに、片瀬の友達がちょうど降りてきた。 「冬馬!今日、すげぇ天気いいから、頂上いい感じらしいぜ!」 「私、頂上はちょっと不安だけど、あのコースは滑れるようになったから行きたいんだよね!」 彼女が俺が降りてきたコースよりもさらに上のあたりを指差している。 「いや…、俺は三上さんと…」 チラリと俺を見る片瀬に、「俺はちょっと休憩したいから、皆んなで行ってこいよ」と言った。 「でもっ…」 「休憩させてくれ」 俺が言うと、片瀬は渋々と「分かった。上行こう」と、他の面々に言った。 「三上さん、ちゃんとロッジにいて下さいね。 暖かくして休憩してください」   最後まで後ろ髪引かれるのか、俺を気にかけつつも5人でリフトに向かっていく。 俺に相当合わせていたのだろう。 他の人と動く時はかなり速く移動している。 やっぱり、俺がいると片瀬は楽しめないよな。 少し練習しとくか? そう思いつつ、ロッジの椅子に座っていると、レンタル品なんかの価格表の隣に「インストラクターいます」と書いてある。 どうやら、スキー場にいるインストラクターに教えてもらうことも出来るらしい。 プロに教えてもらうのもありだな。 値段もそこまで高額じゃないし、レンタル品も全て片瀬が支払ってくれたしな… うーんと唸りながら見ていると、「あれ?みかじゃん!」と声をかけられた。

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