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26 余計な一言

また引っ張ってもらってリフトを降りた。 「何回乗っても降りるのに慣れる気がしない」 「最初はそう思うよな。 意外と人間、慣れるもんだ」 「ふーん」 そんなビジョンが全く見えない。 それより…、やっぱり上から見るとそこそこ傾斜があるように見えるんだよな… 自分が降りていくコースを眺め、再び恐怖する。 それから、ハチにアドバイスをもらったり、支えてもらったりしながら滑る。 伊達にインストラクターをやってないな。 片瀬よりも教え方が上手い…、というか、小学生でもわかるような説明をしてくれる。 先ほどよりも短い時間で降りてこれた気がする。 なんか楽しいかもしれない。 「楽しいか?」 「え…?」 「昔から、ミカは分かりやすいよな。 さっきよりだいぶ表情が明るい」 「そ、そうか?」 俺は自分の頬に片手を当てた。 言うほど分かりやすいか? しかも、今はフェイスマスクだのゴーグルだので、けっこう顔は隠れてる。 「さ、もう一回滑るか?」 「おう」 それからもう一度、初期のコースを滑った。 最初から比べたらかなりレベルが上がった気がする。 連れてきてくれた片瀬のおかげだな。 リフト乗り場の近くでハチが待っていたのでそちらに向かう。 「初心者コースは良さそうだな。 ミカが行けそうなら、もう少し上から滑るのもありだけど、どうする?」 「えっ…。流石にまだいっぱいいっぱい…」 そんなふうに話していたら「三上さん!!」と大声で呼ばれた。 驚いて声のした方を見ると、片瀬がこちらに向かって来てきた。 「あ、片瀬」 「なに?さっき言ってた後輩?」と、ハチは俺を見た。 「う、うん。そう。 ロッジで待ってろって言われたの忘れてた。 やべぇ…、怒られるかも」 俺はこっそり、ハチ言った。 片瀬も顔を防寒具で覆っているけど、怒っているのが声色や動作で分かる。 いや、俺が悪いんだけどさ… 「何してたんですか!?」 近くに来た片瀬が俺の腕を掴んだ。 「わ、悪い。練習してた。 えっと…、頂上どうだった?」 「俺がどれだけ心配したと思ってんですか!」 「いや、本当に悪かったって…。 その、知り合いがここでインストラクターしてて、思わず意気投合したんだ…」 そこでやっと片瀬はハチの存在に気がついたようで、少し怒りをセーブしたようだ。 「こんにちは。ミカ借りて悪かったな。 君はミカの後輩くんだよな? 俺はミカの幼馴染なんだ。小学からの仲で」 「後輩?」 片瀬の声に棘がある。 「心配かけて悪かったな。 ミカは君に返すよ。 でも、俺とミカは一時期、付き合ったこともあるくらい仲が良いから、安心してくれ」 俺はギョッとしてハチを見る。 え、それ言う必要あるか? というか、俺たちは体の関係はあったにしろ、恋人ではなかったような… 「面倒を見ていただきありがとうございました。 行きますよ、三上さん。 俺の友達も一緒に探してたんで」 「あ、そうだよな。本当に申し訳ない…」 言うや否や、片瀬が俺の腕をぐいぐい引いて歩くので、「ハチ、またな」と声をかけて歩くのに集中した。 ハチは意味深な笑みを浮かべて手を振っている。 ハチは多分、俺たちの関係に勘づいたろうな。 勘付いたなら変なこと言うのやめて欲しいかったんだけど! 歩きながら、片瀬は電話をかけた。 「見つかったら大丈夫。先にコテージに向かうから、気にせずに楽しんでて」と言っているので、一緒に来た友人らにかけているのだろう。   みんなの楽しい時間に水を差してしまって、申し訳無い。 37歳で迷子騒動を起こしてしまって恥ずかしい。 最初にロッジに連れてこられ、借りたものを返した。 身軽になったところで、再び腕を引かれる。 人が多くて恥ずかしいから、離してくれと言いたかったが、片瀬がとても怒っていて言えなかった。

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