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29 夜
「あ"あ"…、最悪だ。喉ガラガラ…」
俺の体力の限界が過ぎていたのに、片瀬は満足するまで俺を抱いたので、体がボロボロだ。
「声聞かれたら、俺らが何してたかバレちゃいますね」
片瀬はまんざらでもない様子で笑う。
友達にバレるの恥ずかしくないのか?
俺は不貞腐れたようにそっぽを向き、布団を被る。
「良いじゃないですか。
俺のものって見せつけたいんです」
片瀬は若いけど、他の若いΩよりも、俺の方が盛ってるみたいで恥ずかしいんだけど。
たとえ、片瀬から盛ったとしても。
「三上さん、機嫌直してください」
片瀬が甘く囁く。
そういう言い方をされると、無視できないから、番というものは厄介だ。
片瀬の方を向き、その逞しい胸に頬を寄せる。
ドッドッドッと、早めの心臓の音がする。
「…、そう言う可愛いことをする時は先に言って欲しいですけど」
「悪いかよ」
機嫌直せと言ったり、離れろと言ったり、忙しいやつだ。
俺が離れようとすると、ぎゅっと抱き込まれた。
「嘘です。このままがいい」
早鐘が次第に治まり、ゆったりした心音が聞こえる。
温かさと心音、好きな匂いに包まれて、俺はうとうとしてしまう。
「寝ていいっすよ」と背中をトントンされて、俺は眠りについてしまった。
…
がやがやとした話し声で俺の意識は覚醒した。
慌てて起きあがろうとしたが、片瀬に抱きしめられていて、叶わなかった。
「か、片瀬?」
「はい?」
「なんだ、起きてたのかよ。
え、今何時?」
「んー…、18時」
「は!?」
昼に戻ってきて、3時近くまでヤって…、6時まで寝てたってことか!?
「起こせよ!!」
俺が大きな声で言うと、部屋の扉がノックされた。
「冬馬ー、片瀬さーん。起きました?」
「起きました!!!」俺が慌てて返事をする。
どうやら、他の4人は夕食の準備をしていたらしい。
スキー場名物のカレーと豚汁を作っていたようだ。
のうのうと寝ていて申し訳ない。
本当に、起こせよ片瀬!!
申し訳なさすぎて謝りながら、キッチンへ向かう。
食事の準備はほとんど終わっていた。
「本当に申し訳ない。
片付けは俺たちがやりますので」
「いえいえ。どうせ冬馬が三上さんに無理させたんですよね〜。
こいつのマイペースにはもう慣れてるんで。
むしろ、三上さん大変っすね」
と、笑ってくれた。
マイペースなのは、誰に対してもなのか。
でも、迷子騒動を起こした上、何にもしなかったのに、嫌な顔一つしない彼らは本当に良い人なんだろうな。
せめてもの罪滅ぼしで、食事の片付けと風呂や水場の後片付けはさせてもらうことにした。
どうせ、夕方寝過ぎて、夜はいい時間まで寝られそうにないしな。
一回りも若い人たちと話が合うかと不安だったが、暖炉を囲んでお酒を飲みながら、片瀬の学生時代の話や世間話で盛り上がった。
他の4人が「眠い」となったので、日付が変わる少し前にそれぞれの部屋に戻った。
電気を消して窓を見ると満点の星空が見える。
それだけでも来た甲斐があった。
「すごいな…。片瀬と付き合わなかったら経験できなかっただろうなってことが、今日1日でかなり体験できた」
「楽しかったですか?」
「かなり」
まあ、落とし前どうこうっていうのは、納得はいってないけれど。
「良かったです」と、片瀬は満足そうに笑い、俺を抱きしめて髪をすく。
それが心地よくて、俺はまた片瀬の胸に擦り寄った。
それから、今日、同行した片瀬の友達がいい奴らだって話や、仕事の話、スノボのコツの話をポツポツとしながら、ゆっくりと睡魔を待った。
あんなに寝たのに、いつの間にか俺はまた眠りについていた。
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