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31 距離の取り方
昼食を取ったり、休憩を取ったりしながらの帰路だったので、家に着く頃には夕方になっていた。
片瀬の家の前で、俺と片瀬は車を降りた。
「よく寝てましたね。体辛いですか?」
片瀬に心配そうに言われて、我ながら本当によく寝たよな、と苦笑した。
まあ、甘えてこない人がタイプって話を聞いてから少し気まずくて、後半寝たふりをしたところもあったけど。
「久々に運動したから疲れたのかもな。
せっかく連れて行ってもらったのに悪いな」
「それは全然!
無理矢理誘ってしまいましたし」
「スノボ、楽しかったよ。
気が向いたらまた誘ってくれ」
そう言うと、片瀬は嬉しそうに「はい」と言った。
友達も一緒だと気を使わせてしまうから、片瀬さえ良ければ、次はサシだとありがたいな。
「晩飯どうします?」
「あー…」
片瀬と外食に行ってもいいし、片瀬の家に泊まる時は作ってくれたりもしていた。
けど…、あまり時間を奪ってしまうのも悪いかなと思い、「いや、帰ろうかな」と言った。
「そうですか…」
片瀬がしゅんとしていて、少し罪悪感があるけど、6人いたところから急に2人の空間になったら気が抜けて甘えてしまいそうだ。
「明日も仕事だしな!
友達たちによろしくな」
そう言って俺は自宅に向かう。
片瀬に「送ります」と言われたが、それも丁重にお断りした。
それから、日常に戻り、度々「今週末、どこか行きませんか?」とか「家に来ませんか?」も誘われたが、断ることが増えた。
今までもよく誘われていて、特に予定がないのと、片瀬と過ごすのは居心地が悪い分けでもないので、基本は誘いにのっていたんだが…
やはり、ここのところ、どんどん気を許して甘えている気がする。
年下とはいえ、片瀬はα特有の甘やかし体質らしく、あれこれと世話を焼いてくれる。
嬉々としてやっているように見えたので、気を許していたけど、あの話を聞いた感じ、あまりに甘えていると片瀬が冷めてしまいそうだ。
でも、断ると片瀬は悲しそうな顔をするし、俺の良心も痛むので、3回に1回は断りきれずに付き合うことにした。
そして今日は断れなかった日だ。
片瀬の家にお邪魔し、手土産を渡す。
「三上さん、毎回律儀に持って来ますよね」
「あぁ…、仕事柄とかもあるのかな。
手ぶらで人の家行くの慣れてないんだよな」
「ふーん。でも、もう付き合ってるし、そんなに気を使わなくていいですよ」
「そ、そうだな」
「もし、手土産選ぶのが大変でうちに来たくないなら、何もいらないですよ」
「…え?」
思いもよらないことを言われて片瀬を見る。
片瀬は悲しそうな顔をして「最近、あまりうちに来てくれないので」と言った。
「いや、そう言う訳じゃないけど」
「じゃあなんで?」
「なんでっていうか…、別に避けてる訳じゃないし、予定があるだけで」
そう誤魔化すが、片瀬は「本当に?」と、疑いの目で見てくる。
「しつこい。腹減ったし、飯にしようぜ」と、片瀬を置いてキッチンへ向かう。
いい匂いがする鍋が置いてあり、蓋を開ける。
「ビーフシチューか!俺めっちゃ好きだわ」
ビーフシチューが好きなのは本当だが、誤魔化すために大袈裟に言う。
蓋を戻した瞬間に、俺の後ろを着いてきた片瀬に抱きしめられる。
「美味しいビーフシチュー、いくらでも作るので、いつでも来てください」
肩口にぐりぐりと頭を押し付けて来て、甘えられると、こちらも甘えてしまいそうになり、俺は慌てて離れようとする。
「冷めちゃうと悪いし、早く食べよう」
俺がそう言うと、片瀬は不満げに「分かりました」と言った。
俺のせいだけど…、気まずいな。
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