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32 久々の家
「美味しい美味しい」と言いながら、片瀬飯を平らげる。
申し訳ないから後片付けは毎回させてもらっている。
余っているビーフシチューは、タッパーに詰め、洗い物に取り掛かる。
シチュー、美味しかったから持ち帰りたいな…
片瀬飯の日に余ったりすると、ちょこちょこ持ち帰らせてもらってたけど、それもなんか図々しいなと思い直した。
本当に俺、片瀬に頼り切っているな…
愛想尽かされちゃう前に気付いてよかった。
丁度片付けが終わったタイミングで先に風呂に入っていた片瀬が上がってきた。
「片付けありがとうございます。
三上さん、お風呂どうぞ」
「ああ、借りるな」
風呂上がりに水を取りに来た片瀬が冷蔵庫を開け、シチューに気付いたのか、「あ、余ってたんだ…、三上さん、要ります?」と言った。
「あ…、いや、大丈夫」
と、俺は喉から手が出そうになるのを堪えて言った。
「珍しいですね。
お口に合いませんでした?」
「いや!めちゃくちゃ美味しかった。
でも、いつも貰うのも悪いしさ…」
「三上さんに食べてもらうの嬉しいんですけどね…
まあでも、荷物になるし要らないなら…」
「や、やっぱり貰っていってもいい?」
俺が貰うことで嬉しいなら貰う。
決して、食べたいからではない。断じて。
「どうぞ。明日帰るときに渡しますね」と、嬉しそうに言われ、心臓がぎゅんとなった。
それを誤魔化すように「じゃあ、風呂借りるわ」と横をすり抜けた。
最近、あいつが見せる犬みたいな嬉しそうな顔に弱い。
今まではα特有のプライドのようなものがあり、屈託なく甘えてくることがなかった。
今は、片瀬もかなり俺に気を許しているのだろうとは思う。
だが、それに気をよくして俺から甘えるのは良くない。
そんな風に己を戒めながら風呂に入った。
風呂から出ると、片瀬が何やらテレビのリモコンを操作していた。
風呂上がりから寝るまでの間は、たいていお酒を飲みながら、サブスクの映画鑑賞をする。
「観たい映画あったか?」
俺が缶ビールを2つ机に並べながら聞くと、「洋画のアクションと、邦画のサスペンス、どっちがいいですか?」と聞かれた。
「お、いい2択だな」と言いつつ、甘い雰囲気にならないのはアクションかなと考え、「アクションにしよう」と提案した。
乾杯をしてから映画を再生する。
去年、話題になった人気米俳優が出ている名作だ。
が、流石洋画。
しっかり、主演俳優とヒロインの絡みがある。
今までは、しっとりしたシーンがあると、隣の片瀬の方に凭れ掛かったりしていた。
が、今日からはやらないぞ!
考えてみれば、こういう時、接触するのは俺からで、片瀬から触れてきたことってあっただろうか…?
勿論、凭れ掛かれば頭を撫でてくれるし、手を繋げば握り返してくれる。
でも、なんとなく返しているだけで、片瀬的には鬱陶しいと感じていたのではないか…?
俺は、なるべく隣に意識が向かないように、画面に集中した。
「肩、使っても良いですよ」と片瀬に言われる。
「あ、いや、大丈夫」
視界の端で、片瀬がこちらを凝視しているのが見えたが、俺は目を合わせないように画面から目を離さなかった。
エンドロールが流れ、映画が終わったことが分かった。
なんだか、話八分で集中できなかった…
でも、流し見でも面白かったから、自宅で見返そうかな。
なにせ、ここ最近の週末は予定がなくて暇なんだ。
エンドロールも流れ終わり、完全に画面が切り替わる。
「俺はもう飲み足りたし、歯磨きして寝ようかな」
わざとらしく、伸びをしながら立ち上がって、片瀬を見下ろす。
片瀬は、俺を不審そうに見上げていた。
「えっと…、飲み足りなかったか?」
思い当たる節はあるが、とぼけてそう聞く。
「別に…、俺も寝ます」
不貞腐れたように言う。
片瀬的には、甘えられた方が嬉しいんだろうか?
いや、でもあの日、確実にベタベタされるのは嫌だって言ってたしな…
先に洗面台に向かい、歯を磨いていると、後から来た片瀬も歯ブラシを咥えて隣に立った。
普段なら、ここで「立つのしんどい」とか言って寄りかかっていたが、それも今日からは封印だ。
先に口をゆすいだ片瀬が、さっきより不機嫌なオーラ剝き出しで、寝室に向かった。
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