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38 両親

目を開けると見知らぬ天井が目に入り、俺は慌てて辺りを見回す。 体に力が入らなくて、体を起こすことができない。 心配そうにこちらを覗き込む両親の顔があった。 「秋!?」 「目が覚めたのか!?」 記憶の中の2人よりも、だいぶ老けたように感じる。 俺が37歳ってことは、2人は還暦を過ぎている。 結婚や番、出産の話をされるのが嫌で、ここのところ、実家には寄り付かなくなっていた。 久々に見たな… この歳で両親に迷惑をかけるなんて… 「ごめん。俺、倒れたんだよな」 俺が無理やり笑顔を作って言うと、母さんは悲しそうな顔をした。 「部長さんが連絡をくださったのよ。 貴方、番と連絡がつかないって本当?」 父さんと母さんはαとΩの夫婦だ。 Ωの母さんからは、能力や肩書きなんてどうでもいいんだから、自分を大切にしてくれる人に番にしてもらうのよ、と幼少期から口を酸っぱくして言われてきた。 それが、片瀬コーポレーションの子息と番って、捨てられたなんて知られたら、悲しむに決まってる。 「あぁ、うん。ちょっと喧嘩しちゃって。 相手は謝ってくれてるんだけど、俺が無視してたら体が先に根を上げたみたいだ」 安心させるために、そんな嘘八百を言ってみたが、両親の表情を見るに信じてないようだ。 「もし、相手に連絡がつかないなら、自治体や警察に言えば会わせてもらえるんだぞ? 父さんと一緒に行くか?」 普段寡黙な父までもが心配している。 「そんな、大袈裟にしないでくれよ。 俺でなんとかできるよ。 連絡先も知ってるんだしさ」   俺が頑なにそう言うと2人は納得していない様子だが、その話題は終了した。 「私たちが結婚しろってうるさく言ったからよね、ごめんなさいね。 和解したら、うちに連れてきなさいね。 近いところに住んでるんだから」 そんな母の言葉に俺は泣きそうになりながら頷いた。 2人は「目を覚ましたばかりで疲れてるだろうから、今日は帰るね」と言って帰った。 主治医の話では、とりあえず栄養剤なんかの点滴をして意識は戻ったけど、番に会わないことには同じことの繰り返しになるので、すぐには帰せないとのこと。 入院か… 自宅療養よりも時間を持て余してしまうな… こんなことになるなら、休暇をもらうべきだった。 まだ頭がぼーっとしている。 浅い眠りと微睡を行ったり来たりしていると、どのくらい経ったのか、廊下が騒がしくなった。 「三上さん!!!!」 バン!と病室のドアが開き、俺は驚いて目を覚ました。 そこには前よりもやつれた様子の番が、高そうなスーツを着て、息を切らしていた。 俺、ついに片瀬の幻まで見えてるのか? いよいよ死ぬのかも知れないなとぼんやりしていると、顔を歪ませた片瀬が俺のそばまで来て、頬に手を添えた。 温かい…、そしてやけにリアルな質感。 ぼーっと片瀬の幻影?を眺めていると、不意に抱きしめられた。 その瞬間、体の怠さや熱っぽさがスーッとなくなっていく。 そして意識もクリアになった。 この片瀬、本物か!?

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