39 / 58

39 真相

「あれ…?本物?」 思わず声が漏れた。 片瀬は俺を抱きしめて、髪に顔を埋めたまま「ごめんなさいごめんなさい」と呟いている。 体が軽くなったので、俺は手を布団から出してその背中をとんとんと叩く。 久々に嗅ぐ片瀬の匂いに、俺は全身の細胞が生き返るような気持ちになった。 それにしても、片瀬、良い服着てるのに痩せたな。 背骨が浮いている気がする。 「俺、捨てられたかと思った」   そう呟くと、ガバリと片瀬が顔を上げた。 「不安にさせて本当にすいません!!! 説明したかったんですけど、本当にそんな余裕もなくて! 三上さんをこんなふうにしてしまって本当にごめんなさい」 泣いてるし… 迫真の片瀬の謝罪に、2発くらい殴ろうかと思っていた怒りが消え去る。 なんかこいつの方が苦しんでるみたいな顔してるし。 「もう、兄貴捕まえたんで、元に戻れます」 どうやら、海外に飛んだ兄を探していたらしい。 片瀬の兄は、嫌なことがあったり、経営で父親に叱られたりすると、電波のない発展途上国に飛ぶという悪癖があるのだと説明された。 悪癖という言葉で済ませて良いのか… なんとか捕まえて、宥め、今は会社に戻って仕事をしているらしい。 「説明しようにも電波がなくて… しかも、社長の就任式が昨日で、それに間に合わせるために東奔西走…」    そこで片瀬はため息をついて、寝ている俺の胸に顔を埋めた。 かっちりと固められた後頭部を控えめに撫でる。 うちの会社にいるときは、最低限の身だしなみでセットしていたが、片瀬コーポレーションではオールバックにして固めているんだな… この髪型だと、少し老けてみえる。 失礼そうだから言わないけど。   「実家のことも、説明してなくてすみません。 知られたら、距離を取られてしまいそうで言えなくて、なんなら結婚するまで隠すつもりでした」 全く、ずるいやつだ。 それを言っててくれれば、少しはお前を信用できたのにな。 「確かに、一線引くだろうな。 でも、番になったんだからそれくらいじゃお前を諦めねぇよ」 「うう…、好きです、秋さん」 久々の愛の言葉に、俺の心臓が跳ねる。 病院じゃなかったら発情するとこだった。   「番に会えないとこうもダメージを食らうとは思わなかったけどな。 だから、もしご令嬢と結婚しても、俺が生きているうちは会ってもらえると助かるな」   俺がそう言うと、片瀬は「は?」と顔を上げた。 え、だめなのか? 俺はこのまま衰弱して死ねと?? 俺がショックを受けた顔をして奴を見る。 「勘違いしてますね。 もしや、あの記事読みました?」 「まあ、だいぶ出回ってたし…」 「うわ…、本当にすみません。 余計不安になりましたよね! あれは兄貴の婚約者です」 「…え?」 「兄貴、嫁を置いて海外飛んだんすよ? 信じられないですよね。 それを宥めているところでした」 「は、はぁ〜」 俺はベッドの上で脱力した。 そうか、ネット記事なんてそんなもんだよな… 嘘に踊らされてたわけか… 「だから、本当にこんなこと言うのは何様だって感じだし、許してくれなくていいので… まだ秋さんの隣にいさせてくれないですか?」 上目遣いで片瀬が言う。 会うまで許すつもりもなかったけど、こいつがいないと俺は死ぬんだ。 番なんて軽い気持ちでなるもんじゃない。 「お前がいないと俺が死ぬことが今回のことでよく分かった。 死なないように世話しろよな」 たまごっちか、俺は… 不安が消えたわけではないが、そう答えると片瀬は満面の笑みで「一生離しません!」と答えて俺の手を握り、キスを落とす。 「手までカリカリ…」と片瀬が悲しんでいたので、それを復讐としておいた。

ともだちにシェアしよう!