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39 真相
「あれ…?本物?」
思わず声が漏れた。
片瀬は俺を抱きしめて、髪に顔を埋めたまま「ごめんなさいごめんなさい」と呟いている。
体が軽くなったので、俺は手を布団から出してその背中をとんとんと叩く。
久々に嗅ぐ片瀬の匂いに、俺は全身の細胞が生き返るような気持ちになった。
それにしても、片瀬、良い服着てるのに痩せたな。
背骨が浮いている気がする。
「俺、捨てられたかと思った」
そう呟くと、ガバリと片瀬が顔を上げた。
「不安にさせて本当にすいません!!!
説明したかったんですけど、本当にそんな余裕もなくて!
三上さんをこんなふうにしてしまって本当にごめんなさい」
泣いてるし…
迫真の片瀬の謝罪に、2発くらい殴ろうかと思っていた怒りが消え去る。
なんかこいつの方が苦しんでるみたいな顔してるし。
「もう、兄貴捕まえたんで、元に戻れます」
どうやら、海外に飛んだ兄を探していたらしい。
片瀬の兄は、嫌なことがあったり、経営で父親に叱られたりすると、電波のない発展途上国に飛ぶという悪癖があるのだと説明された。
悪癖という言葉で済ませて良いのか…
なんとか捕まえて、宥め、今は会社に戻って仕事をしているらしい。
「説明しようにも電波がなくて…
しかも、社長の就任式が昨日で、それに間に合わせるために東奔西走…」
そこで片瀬はため息をついて、寝ている俺の胸に顔を埋めた。
かっちりと固められた後頭部を控えめに撫でる。
うちの会社にいるときは、最低限の身だしなみでセットしていたが、片瀬コーポレーションではオールバックにして固めているんだな…
この髪型だと、少し老けてみえる。
失礼そうだから言わないけど。
「実家のことも、説明してなくてすみません。
知られたら、距離を取られてしまいそうで言えなくて、なんなら結婚するまで隠すつもりでした」
全く、ずるいやつだ。
それを言っててくれれば、少しはお前を信用できたのにな。
「確かに、一線引くだろうな。
でも、番になったんだからそれくらいじゃお前を諦めねぇよ」
「うう…、好きです、秋さん」
久々の愛の言葉に、俺の心臓が跳ねる。
病院じゃなかったら発情するとこだった。
「番に会えないとこうもダメージを食らうとは思わなかったけどな。
だから、もしご令嬢と結婚しても、俺が生きているうちは会ってもらえると助かるな」
俺がそう言うと、片瀬は「は?」と顔を上げた。
え、だめなのか?
俺はこのまま衰弱して死ねと??
俺がショックを受けた顔をして奴を見る。
「勘違いしてますね。
もしや、あの記事読みました?」
「まあ、だいぶ出回ってたし…」
「うわ…、本当にすみません。
余計不安になりましたよね!
あれは兄貴の婚約者です」
「…え?」
「兄貴、嫁を置いて海外飛んだんすよ?
信じられないですよね。
それを宥めているところでした」
「は、はぁ〜」
俺はベッドの上で脱力した。
そうか、ネット記事なんてそんなもんだよな…
嘘に踊らされてたわけか…
「だから、本当にこんなこと言うのは何様だって感じだし、許してくれなくていいので…
まだ秋さんの隣にいさせてくれないですか?」
上目遣いで片瀬が言う。
会うまで許すつもりもなかったけど、こいつがいないと俺は死ぬんだ。
番なんて軽い気持ちでなるもんじゃない。
「お前がいないと俺が死ぬことが今回のことでよく分かった。
死なないように世話しろよな」
たまごっちか、俺は…
不安が消えたわけではないが、そう答えると片瀬は満面の笑みで「一生離しません!」と答えて俺の手を握り、キスを落とす。
「手までカリカリ…」と片瀬が悲しんでいたので、それを復讐としておいた。
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