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41 日常

久々に出社すると、部長や部下から「戻ってくれて良かった」と喜んでもらえた。 うちの部署はβが多いはずなのに、第ニ性への理解力が高いようで助かった。 そんなことよりも、今回の片瀬の不在やら、片瀬コーポレーションの動向から、片瀬の実家のことが社内中に知れ渡ったようだった。 どうして今まで片瀬が実家のことを隠していたかがはっきりとわかった。 とんでもない量の女性とΩが、片瀬のデスクに集まっている。 最初は「実家を継ぐ気はないですし、俺には関係ないですよ」と説明していたが、一向に減る様子がないので諦めていた。 社内にいると仕事にならないからと言って、外回りばかりしている。 俺と片瀬が番であることは、部長にだけはバレているが、部長の心遣いで誰にも言っていないとのこと。 本当に助かった… この状況で冴えないおっさんΩが番だなんてバレたら、とんでもないことになるだろう。 しかも上司と部下だから、俺が脅したとか言われそうだもんな。 少しでもバレる要素が減るように、社内では業務連絡以外は話さないし、ランチも避けている。 片瀬はあまり納得していない様子だったが、代わりに土日の時間をくれるなら…、と渋々頷いてくれた。 『明日、うちに来てくれるんですよね?』と、念押しのラインが金曜の朝に届いた。 『そのつもりだが、何か問題があったか?』と返すと 『いえ!待ってます!今日も頑張れそうです』という返事がニコニコのスタンプと共にきた。 なんだか色々と悩ましいこともあるが、そんなふうに手放しで喜んでもらえると、俺の心も軽くなる。 俺はいつものお家デーt…、ではなくサブスク映画鑑賞会だと呑気に考えていた。 最近の片瀬は、夕方ギリギリまで外出して、定時で皆んなが帰宅する頃に帰ってきてデスクワークをしている。 体を壊すのではないかと冷や冷やしていたが、本人曰く、俺に会えなかった時よりも圧倒的に元気とのこと。 俺は部長からの指示で、当分は定時帰宅になっているので、課長なのに申し訳なく思いつつ、部下より先に帰らせてもらっている。 帰社する片瀬と入れ違いになる。 「片瀬、お先。あまり無理をするなよ」 俺が声をかけると「お疲れ様です。週末なんで、大丈夫ですよ」と笑った。 やけに“週末”を強調された気がする。 言われなくても、ちゃんとお前の家に行くわ! そうつっ込まんばかりに睨んだが、片瀬は笑顔で「お疲れ様です」と言ってPCの電源を入れた。 そんな片瀬の背中を一瞥して俺は会社をでた。 背骨も浮いていない。 本当に健康体のようだな。

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