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44 攻防

「え…」と、片瀬が情けない声を出して動きを止めた。 「…」 お互い無言で見つめあう。 いや、服に入れた手を退かせって。 俺は痺れを切らせて、奴の手を掴んで服から出そうとしたが、全然動かない。 「ちょ…、やらないんだから、手をどけろ」 「いやです。 …、秋さんはしたくないんですか?」 「さっきからそう言ってる」 「秋さんって本当に俺のこと好きですか?」 「は?ま、まぁ…、番だし、そうだろ」 「本当に?」 「しつこい」 俺はそう言って、体を反転させて片瀬に背を向けた。 「俺ばっかり好きみたいだ…」 不貞腐れたように片瀬が呟いて、寝返りでできた隙間を埋めるように俺を後ろから抱き寄せた。 そんなこと言われたって、こいつと同じ熱量で愛情表現を返すには、歳を取りすぎている。 「そうでもないだろ」と、俺は仕方なく返した。 「名前で呼んでくれないし」 「職場で間違って呼びたくないからな。 転職したら積極的に呼ぶと思う」 「スキンシップ俺からだし、セックスも乗り気じゃないし」 ぐだぐだと文句を垂れている。 今日は珍しくネガティブだな… さっきまでのホクホク具合とは真逆で、俺は高低差に困惑した。 「そんなにやりたかったのか? それなら別に…、しても良いけど」 俺が渋々折れると、がじがじと頸を甘噛みされた。 びりびりして「うっ…」と、声が漏れた。 そこ、Ωにとってはかなり急所なんだが? 慌てて頸をガードしようと手を伸ばすと、指を指で絡め取られた。 今度は頸を舐められて、更にぞわぞわする。 「や、やめっ…、そこ、舐めんな」 繋がれた手を握りしめると、やっと攻撃が止んだ。 「籍入れたくないって言うのは納得できましたけど、そこから秋さん、心ここに在らずだし、 セックスは断られるし、普通に不安になる」 落ち込んだ声で言われて、俺のせいかよ!と思った。 いつも自信満々のくせに、俺なんかの言動で落ち込むのか。 「だから、片瀬がしたいならしてもいいって」 「秋さんも同じ気持ちじゃなきゃ嫌だ」 だるい! なんだこいつ! 「てか、番なら分かるだろうが! 求められたらやりたくなるっての!」 俺がやけっぱちでそう言うと、「俺も求められてみたい」と肩に頭をグリグリされた。 なんでこんなおっさんが、求めなきゃいけないんだよ。 普通にグロテスクだろ。 それに… 「お前、友達に年上のメリットって、甘えて来ないところだって言ってただろ」 片瀬は少し考えてから「そんなこと言ってません」と言った。 「いや、言ってたから。だから、結構気を遣って…」 「前はそうだったかもしれないですけど…、秋さんは特別だし。 つーか、甘えたかったんですか?」 途端に墓穴を掘ったと思い、「そうは言ってない」と言った。 「ふーん」と言って、片瀬はまた頸をガジガジと噛み始める。 だからそれ、普通に感じるからやめろって言ってるんだが! 「も、分かったから! やる!やりたい!!」 と俺が言うと、「仕方ないな〜」と片瀬はノリノリで俺を組み敷いた。 コロコロと感情の忙しいやつだな。 っていうか、結局やるなら、あの攻防要らなかっただろ!

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