44 / 58
44 攻防
「え…」と、片瀬が情けない声を出して動きを止めた。
「…」
お互い無言で見つめあう。
いや、服に入れた手を退かせって。
俺は痺れを切らせて、奴の手を掴んで服から出そうとしたが、全然動かない。
「ちょ…、やらないんだから、手をどけろ」
「いやです。
…、秋さんはしたくないんですか?」
「さっきからそう言ってる」
「秋さんって本当に俺のこと好きですか?」
「は?ま、まぁ…、番だし、そうだろ」
「本当に?」
「しつこい」
俺はそう言って、体を反転させて片瀬に背を向けた。
「俺ばっかり好きみたいだ…」
不貞腐れたように片瀬が呟いて、寝返りでできた隙間を埋めるように俺を後ろから抱き寄せた。
そんなこと言われたって、こいつと同じ熱量で愛情表現を返すには、歳を取りすぎている。
「そうでもないだろ」と、俺は仕方なく返した。
「名前で呼んでくれないし」
「職場で間違って呼びたくないからな。
転職したら積極的に呼ぶと思う」
「スキンシップ俺からだし、セックスも乗り気じゃないし」
ぐだぐだと文句を垂れている。
今日は珍しくネガティブだな…
さっきまでのホクホク具合とは真逆で、俺は高低差に困惑した。
「そんなにやりたかったのか?
それなら別に…、しても良いけど」
俺が渋々折れると、がじがじと頸を甘噛みされた。
びりびりして「うっ…」と、声が漏れた。
そこ、Ωにとってはかなり急所なんだが?
慌てて頸をガードしようと手を伸ばすと、指を指で絡め取られた。
今度は頸を舐められて、更にぞわぞわする。
「や、やめっ…、そこ、舐めんな」
繋がれた手を握りしめると、やっと攻撃が止んだ。
「籍入れたくないって言うのは納得できましたけど、そこから秋さん、心ここに在らずだし、
セックスは断られるし、普通に不安になる」
落ち込んだ声で言われて、俺のせいかよ!と思った。
いつも自信満々のくせに、俺なんかの言動で落ち込むのか。
「だから、片瀬がしたいならしてもいいって」
「秋さんも同じ気持ちじゃなきゃ嫌だ」
だるい!
なんだこいつ!
「てか、番なら分かるだろうが!
求められたらやりたくなるっての!」
俺がやけっぱちでそう言うと、「俺も求められてみたい」と肩に頭をグリグリされた。
なんでこんなおっさんが、求めなきゃいけないんだよ。
普通にグロテスクだろ。
それに…
「お前、友達に年上のメリットって、甘えて来ないところだって言ってただろ」
片瀬は少し考えてから「そんなこと言ってません」と言った。
「いや、言ってたから。だから、結構気を遣って…」
「前はそうだったかもしれないですけど…、秋さんは特別だし。
つーか、甘えたかったんですか?」
途端に墓穴を掘ったと思い、「そうは言ってない」と言った。
「ふーん」と言って、片瀬はまた頸をガジガジと噛み始める。
だからそれ、普通に感じるからやめろって言ってるんだが!
「も、分かったから!
やる!やりたい!!」
と俺が言うと、「仕方ないな〜」と片瀬はノリノリで俺を組み敷いた。
コロコロと感情の忙しいやつだな。
っていうか、結局やるなら、あの攻防要らなかっただろ!
ともだちにシェアしよう!