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47 休日の始まり
「秋さん、体調はどうですか?」
「ああもう全然元気」
まるで体調を心配してくれる素敵な彼氏をテキトーにあしらっている悪い男に見えるかもしれない。
が、こいつの「体調はどうですか?」は、ヒートまだですか?と嬉々とした確認だ。
期待を隠しきれていない顔がムカつく。
こちらの気も知らないで、何回目だ。
「全く、ヒートのヒの字もないから、そんなに俺に張り付いてないで大丈夫だぞ。
部屋に篭る気なら、買い出しでも行くか?」
映画を観たり、携帯を確認したり、本を読んだり、極めて穏やかな休日を送っているのに、ずっと片瀬が監視してくるのが何ともストレス…
それで外出するか確認したが「秋さんを外に出すわけにはいきません」と、断られた。
しばし片瀬は思慮した後、「でも食料は少し不安ですね。1人で買ってきます」と立ち上がった。
昨日ぶっ倒れたこいつに行かせるのも些か不安だけど、ピンピンしてるしいいか。
「絶対外に出たらダメですからね。何かあったらすぐに連絡してください」と念を押して片瀬は外出した。
いつも見送られる側だから、なんだか新鮮な気持ちだ。
にしても、1人は1人でかなり気楽だ。
20年近く1人で暮らしてて、よくもまあ、片瀬との生活が苦じゃないなと自分でも驚くけど、
やはり1人の時間も悪くはない。
ベッドに倒れ込むと、ついさっき片瀬が脱いだ寝巻きが放られている。
本当にただの好奇心だ。
決して、そういう趣味があるわけじゃない。
そう自分に言い聞かせて、その寝巻きを1吸いした。
まあ、番の匂いを1吸いで止められるわけがなく、すんすんと嗅ぐ。
ムカつくくらい良い匂いだ。
時間を忘れてそうしていると、じわっと体が熱くなってきた。
やばい、これはヒートだ…
頭がぼんやりしてきて、今すぐにでも片瀬に慰めてもらいたい。
そこらじゅうに匂いやフェロモンが漂っているのに、なんで本体がいないんだよ!ともどかしい。
自分で追い出したのに。
今すぐ連絡して戻ってきて貰えば良いのに、ぼんやりした頭では、そんなことよりも目の前の匂いから離れられない。
でも、一組のスウェットじゃ足りない…
俺はクローゼットに近づき、扉を開けた。
以前はワイシャツやスーツがメインだったここも、在宅になってからは部屋着のようなゆったりした服が増えて、非常に作りやすい。
一緒に住んでからは、必ずヒートの時は片瀬がいたから、巣作りなんてしたことがない。
が、本人がいない今、自分のΩ性を満たせるのはこれしかない。
手当たり次第に衣服を取り出し、ベッドに投げ捨てる。
それをなんとか広げたり、並べたりしてみたが…、なにせ初めて作った巣…
なかなかに不格好だ。
だけど、もう我慢が出来なくてそこに飛び込む。
見た目は悪いけど、ちゃんと巣の機能は果たすようでなんとも言えない高揚感があった。
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