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50 憂鬱
有給を3日使った水曜日の夕方、
俺はようやくヒートが治った。
今回は、片瀬が執拗に言葉責めをしてきた気がする。
朧げな記憶の中で、何度も焦らされて、言うまで許してもらえなかった。
それと同じだけ「好きだ」と言われたので、片瀬は俺に意地悪をしたかったのか優しくしたかったのか…、真意がわからない。
布団の中でぼーっとしていると、片瀬が寝室のドアを開けた。
「夕食できましたけど、食べられます?」
「ありがとう。ヒートも落ち着いたし、そっちで食べるわ」
「…、そうですか」
ヒートが終わったからってガッカリするな。
Ωからしたら、かなり辛いんだからな。
食卓につき、美味い飯を口に運んでいると片瀬が「秋さん」と声をかけてきた。
口に入っているので、目で先を促す。
「兄の結婚披露宴があるんです。
で…、秋さんが着る服なんですけど」
「は?」
「来週の土曜日に採寸を…」
「いや、ちょっと待て。
なんでお前の兄の結婚式で俺の服を準備することになるんだ」
「一緒に行くからですけど?」
「は?嫌ですけど」
100歩譲って俺が片瀬と籍を入れているなら分かるけれど、今のところただの恋人では…?
そんな俺の疑問を汲んだのか、
「片瀬家において、番って結婚したも同然なんですよ。
うちは、番を作ったら他の人とは結婚なんて言語道断なんですよ」
と説明した。
それ、早く言えよ!!
俺を番にしたときに“覚悟”がどうとか言ってたけど、家柄も関係していたのか。
だが…、絶対に行きたくない。
「行かないとダメなのか?」
「俺の両親には番の話はしてます。
かなり会いたがっています」
そんなに期待されてて、連れてきたのが息子よりも12歳も年上の冴えないΩだなんて…、ご両親が泣いてしまうだろう。
「だが…」
「何より、招待されたゲストが俺に縁談を持ちかけてくるのを断る理由が欲しいんです」
「…、それが本音か」
「すみません」
片瀬が項垂れる。
同じ職場だった時でさえ、あんなに言い寄られていたんだ。
それが家業の会社を挙げた披露宴となれば、相当な数になりそうだ。
助けてやりたい気持ちはあるが…、荷が重すぎる。
「ちなみに両親には秋さんの名前や年齢、顔も知ってます」
「…え?な、なんで」
「流石に同棲するにあたって、相手の情報を知らせないわけにはいかず…」
「そうか」
1番ネックだった部分は、ご両親は知っているわけか。
でも…、大企業の社長の結婚式なんて格式が高すぎる。
「俺との将来を考えてくれているなら、きてくれますよね?
隣で座ってるだけでいいんですけど」
それを言われると、断ったら肯定することになる。
卑怯すぎる。
「本当に座っているだけだからな。
スーツは悪いけど、俺の予算の範囲内で…」
そう言うや否や、片瀬は顔を輝かせた。
「ありがとうございます!
スーツ代を秋さんに出させるわけないじゃないですか!
その代わり、俺の好きなようにさせてもらいますから!」
と満足そうに言い、止まっていた箸を動かした。
逆に俺の食欲は減退したわけだが。
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