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51 地元
そして、片瀬の言われるがままにフルオーダーでスーツ作った。
なんとか、式の前々日に仕上げてもらうことになった。
オーダーメイドスーツなんて作って貰ったことがないから、結構時間がかかるのだと驚いた。
その翌週、俺は実家に顔を出していた。
入院以来、親にもっと会っておいた方がいいかと思ったので月に1度は実家に行くようにしている。
片瀬は毎度来たがっているが俺が気まずいので留守番して貰っている。
片瀬もたまには実家に行けば?と言ってみたが「毎日出勤すれば顔を合わせるし、実家に行くなら秋さん同伴ですけど?」と言われてしまい、2度と提案していない。
母に「何か買っていくものある?」と訊いたら、何点か日用品のおつかいを頼まれたので、実家近くのスーパーに寄る。
数年経って、少し廃れた印象が出てきた地元のスーパーを物色していると「あれ?ミカか?」と声をかけられた。
早々に立ち去れば良かったと後悔しつつ顔を上げると、ハチだった。
安堵しつつ「おう。スキー場ぶりだな」と返すと「入院したってきいたときはびっくりしたけど、元気そうで良かった」と言われた。
俺の両親が相当騒いだらしく、実家に帰って知り合いに出くわす度に言われるので、ハチにまで話が回っているのかと驚いた。
「本当、大事 になってたみたいだけど、全然元気だよ。心配かけて悪いな」
「安心したよ。つーか、こないだより何か美人になってねぇか?」
「えっ!?はぁ???
ハチの審美眼を疑うわ。んなわけないだろ」
俺がそういうと、ハチは再度じっと俺を見て
「いや、やっぱり美人になったと思う。
番が原因で入院したって聞いたけど、今はちゃんと愛されてんだな」
とうんうん頷いている。
俺に美人とか1番程遠い表現すぎる。
「まあ、そろそろスキーもシーズンオフだし、本業が本格化する前に飲みにでも行こうぜ。
地元の奴らも会いたがってるからさ」
「おお、そうだな。都合がつけば」
「それ来ないやつのセリフだろ」
そう言って豪快に笑うと「やべ、そろそろ帰らないと親父にどやされる」と慌てて店を出ていった。
ハチとは、セフレ期間はあったが、比較的に友好な関係だから全然構わないが…
希少なΩだったから、正直、地元で良い思い出ってないんだよな。
だから、滅多に実家に帰らなかったっていうのもある。
いざ誘いがきたらどう断ろうかと今から頭が痛かった。
そんな憂鬱も抱えつつ、1番の憂鬱がきた。
片瀬兄の結婚披露宴。
届いたオーダーメイドスーツは、片瀬とペアになっており、俺の方がほのかに可愛い雰囲気だった。
俺、37歳なんだけどな…
これを着て、片瀬の家族に会うのも嫌なんだよな…
会場のフィッティングルームで着て、片瀬と合流すると片瀬は「やっぱりすっごく良いです。俺の見立てに間違いはなかった」と満足そうだったので文句を飲み込んだ。
そういう片瀬は、顔はもちろん、スタイルもいいし、高身長だしでスーツがかなり似合う。
そんな男とセットのスーツを着て、横に並ばなきゃいけない俺の気持ちを考えて欲しい。
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