56 / 58

56 別れ話?

ベッドに投げ捨てられ、体がバウンドした。 その上に片瀬が乗る。 このままじゃまずい。 怒っているときの片瀬は、俺が嫌だと言っても止まらずに、翌日一歩も動けないくらいくたくたにされる。 こいつは在宅だからいいかもしれないが、俺は出社しなくてはならない。 俺が体を起こそうとすると両肩を押さえられて、ベッドに縫い付けられた。 「ちょっ…、なんだよ!」 俺が大きい声を出しても片瀬は怯まない。 本当に何で怒ってんだよ、こいつは。 「最近の秋さん、一緒にいて辛い」 そう言われて、一瞬呼吸が止まった。 なんだそれ、と言おうとしたが、俺と片瀬はあまり価値観は合わない気がする。 今まで生きてきた環境もそうだし、年齢だって違う。 でも…、それを承知でお前は俺を番にしたんだろうが、とは思う。 だけど、俺が25歳だったら恋人が37歳なんて嫌になるに決まっている。 来るべくして来た結末か。 俺は色んな感情のせいで震える口を何とか動かして「なら、別れるか?」と言った。 思っていたよりも掠れて、まるで名残惜しいかのような声だった。 くそ、もっと淡々と言うつもりだったのに。 「…は?」 情けないような、空気が抜けるような声が目の前の男から発せられた。 俺は伏せていた目を上げる。 「俺と…、別れたい?」 片瀬は呆然とした表情で俺を見下ろしている。 思っていた反応と違って、俺は困惑した。 「俺といるのが辛いなら、それしかないだろ」 「嫌だ。やだ…、冗談だろ? 冗談でもそんなこと言うなよ」 押さえられた肩に爪が食い込むほど力を込められて、俺は顔をしかめる。 この馬鹿力… 「最近、秋さん綺麗になりましたよね。 誰のため?」 「綺麗になんかなってないだろ。 いくつだと思って…、ハチにも言われたな。 そうなのか…?」 「ハチ…、ハチハチって 俺と別れてあの人を選ぶんですか? 俺の歯形がついてるくせに」 「なっ…、なんでハチが出てくるんだよ。 全然関係ないし、仮にお前と別れてもあいつは頼らねぇよ。 さっきから何なんだ?」 片瀬が何に激高しているのか分からない。 しかも、一緒にいて辛いとか言われた俺の方が可哀想だろうが。 「俺が好きアピールしても全然響いてないし、 どんなにアプローチしても好きになってくれない。 それはでも…、耐えられます。 けど、あんな言いづらそうに話があるそぶりをされたら…、別れたいのかなって…」 「はぁ?」 話が飛躍しすぎていて、変な声が出た。 前提からもう違っているように思える。

ともだちにシェアしよう!