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56 別れ話?
ベッドに投げ捨てられ、体がバウンドした。
その上に片瀬が乗る。
このままじゃまずい。
怒っているときの片瀬は、俺が嫌だと言っても止まらずに、翌日一歩も動けないくらいくたくたにされる。
こいつは在宅だからいいかもしれないが、俺は出社しなくてはならない。
俺が体を起こそうとすると両肩を押さえられて、ベッドに縫い付けられた。
「ちょっ…、なんだよ!」
俺が大きい声を出しても片瀬は怯まない。
本当に何で怒ってんだよ、こいつは。
「最近の秋さん、一緒にいて辛い」
そう言われて、一瞬呼吸が止まった。
なんだそれ、と言おうとしたが、俺と片瀬はあまり価値観は合わない気がする。
今まで生きてきた環境もそうだし、年齢だって違う。
でも…、それを承知でお前は俺を番にしたんだろうが、とは思う。
だけど、俺が25歳だったら恋人が37歳なんて嫌になるに決まっている。
来るべくして来た結末か。
俺は色んな感情のせいで震える口を何とか動かして「なら、別れるか?」と言った。
思っていたよりも掠れて、まるで名残惜しいかのような声だった。
くそ、もっと淡々と言うつもりだったのに。
「…は?」
情けないような、空気が抜けるような声が目の前の男から発せられた。
俺は伏せていた目を上げる。
「俺と…、別れたい?」
片瀬は呆然とした表情で俺を見下ろしている。
思っていた反応と違って、俺は困惑した。
「俺といるのが辛いなら、それしかないだろ」
「嫌だ。やだ…、冗談だろ?
冗談でもそんなこと言うなよ」
押さえられた肩に爪が食い込むほど力を込められて、俺は顔をしかめる。
この馬鹿力…
「最近、秋さん綺麗になりましたよね。
誰のため?」
「綺麗になんかなってないだろ。
いくつだと思って…、ハチにも言われたな。
そうなのか…?」
「ハチ…、ハチハチって
俺と別れてあの人を選ぶんですか?
俺の歯形がついてるくせに」
「なっ…、なんでハチが出てくるんだよ。
全然関係ないし、仮にお前と別れてもあいつは頼らねぇよ。
さっきから何なんだ?」
片瀬が何に激高しているのか分からない。
しかも、一緒にいて辛いとか言われた俺の方が可哀想だろうが。
「俺が好きアピールしても全然響いてないし、
どんなにアプローチしても好きになってくれない。
それはでも…、耐えられます。
けど、あんな言いづらそうに話があるそぶりをされたら…、別れたいのかなって…」
「はぁ?」
話が飛躍しすぎていて、変な声が出た。
前提からもう違っているように思える。
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