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57 好き(最終話)

「別に俺は…、別れ話をしたかったわけじゃ」 「じゃあ何ですか」 片瀬が縋るような目で俺を見下ろす。 そんな目をされても…、本当に俺の心の準備ができていないんだが… 「それはまだ言えなくて」 そう言うと、片瀬は目を眇めた。 「じゃあ、これだけは教えて欲しいんですけど 俺のこと、少しでも好きですか?」 「えっと…」 俺が言い淀むと肩口に頭をすり寄せた。 いや…、改めて言う必要あるか? この歳で好きだの嫌いだの言うのが恥ずかしいんだが!? 「やっぱり好きじゃないんですね」 体を起こした片瀬と目が合う。 肩から離された熱が名残惜しいのは、なんでかなんて自分に聞かなくても分かる。 「好きでもない奴と番にさせてしまってすみません」 片瀬が俺の上から退き、体が解放された。 片瀬はベッドの淵に座り、俺に背を向けている。 その背中があまりにも小さく見えて、俺は良心が痛んだ。 「…、好きに決まってんだろ。 アラフォーのおっさんに言わせるなよ。 いくらΩだろうが番だろうが、好きでもないやつと同棲も両親に挨拶も出来るわけないだろ。 もう2度と言わないから胸に刻めよ。 俺は冬馬が好きだ。 37才に手を出したことをせいぜい悔やめ」 そう言って布団を頭から被ろうとした。 部屋は薄暗い間接照明だけになっているが、それでも顔が赤いのがわかってしまうだろう。 が、それは阻止された。 「秋さん!俺も好きです!!」 再度片瀬が俺の上に乗り、顔中にキスを降らせる。 口以外にされるキスは、性欲を孕まないからか、こそばゆくて居心地が悪い。 全身で『好きだ』と言われているみたいで、顔の熱が冷めない。 「もういいだろ!こういう雰囲気、慣れないからやめてくれ」 「好きって言うだけで、秋さんはこんな風になってしまうんですね。 俺以外には言ったらダメですよ」 「言うわけないだろ」 俺がそう言って睨むと「俺、嬉しすぎて、言葉だけで勃っちゃいました」と、昂りを俺の太もも辺りに擦り付けた。 この重量のある硬いものが自分に入っている時のことを思い出して、腹の中に熱が溜まる感覚がした。 「秋さんも興奮してるんですね」 「なっ、違う!」 「隠しても、番だと匂いで分かります。 今、すっごく匂いが濃いですよ」 と、首元に鼻をすり寄せる。 片瀬のすっと通った鼻梁が首を掠めるのに「ひゃっ」とへんな声が出た。 どうやらそれがやつのスイッチだったようで、俺の静止を無視して、しつこく抱かれてしまった。 明日は普通に出勤日だって言ってるのに。 事後、満足そうに微笑んで、俺に腕枕をしている片瀬を睨みながら眠りについた。 俺がこいつに素直に「籍を入れよう」と言える日は、もう少し先になりそうだ。 ー了ー

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