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59 可愛らしい来訪者:追記
片瀬と話し合い、とりあえず国内でどこに行くかや、旅館を決めた。
様々、予約なんかも取って、あとは当日を楽しみに過ごすだけ。
旅行は2か月後。
俺の頭には常に、いつ「結婚しよう」と言い出すかという悩みがあった。
確かに番だけど、現状の俺たちは”恋人”。
世間的には、結婚と比べたら不安定な関係だと思う。
旅行の後とか…、あるいは旅館で雰囲気が高まったら言うとか?
プロポーズのタイミングは考えうるが、保留にした返事をするのって、どのタイミングがベストなんだろう…
っていうか、プロポーズらしいプロポーズされたか?
片瀬がαだからって、毎回リードしてもらってるけど俺は12歳も年上なんだ。
俺から切り出してみるのもいいだろう。
っていうか、腹を括れ俺。
土曜日の日中、ソファに転がって悶々と考えていると「シーツ干し終わりました~」と片瀬がのんきな声で言った。
「ああ、ありがとうな」
金曜日だからと励みすぎて、シーツはぐちゃぐちゃ、俺はボロボロになった。
なのに、片瀬だけはやたら生き生きしていて、若さが恨めしい。
「コーヒーでも淹れますか?」
「いや…、冷たいお茶が良い」
「了解です」
片瀬は嫌な顔1つせずにキッチンに向かう。
もはや、介護だろこれ…
インターフォンが軽快に鳴り、俺は体を起こす。
片瀬はキッチンだし、俺が出るか…
「はい」と言いながらボタンを押すと、カメラに可愛らしい中高生くらいの女の子が映った。
「トーマくん、遊びに来たよ」
トーマくん?もしや…、片瀬か?
「え、えっと…、どちら様ですか?」
俺の声が片瀬じゃないと察したのか、キッとカメラを睨み上げる。
「ここ、トーマくんのお家ですよね?
あなたこそ、誰ですか?」
「え、えっと…」
まさか殊勝な態度をとるとは思わず、俺の方が困惑する。
すると、グラスを持った片瀬が戻って来た。
「誰か来たんですか?
お客さん?業者?」
片瀬にも、心当たりはないようだ。
「いや、あの、若い女の子が…」
俺がそういうと、片瀬は怪訝な顔でインターフォンのカメラを覗き込む。
「コハルちゃん!?」
片瀬がそう言う否や、コハルちゃんも「トーマくん!!」と嬉しそうに微笑んだ。
え、えっと…、誰!!?
で、この状況はなんだ…
リビングにしている部屋で、片瀬と小春ちゃんがにこやかに話し合っている。
小春ちゃんは、片瀬の母方の従妹のようで高校2年生だという。
彼らにしか分からない親戚や共通の話題で話したり、近況報告をし合っている。
え、俺いる???
退席しようとしたが、片瀬に「ぜひ秋さんも」と言われてしまい、ぼんやりと2人の顔を眺めたままお茶を啜っている。
全然、寝室で映画とか観ますけど???
片瀬に話を振られて、話すたびに小春ちゃんに睨まれるし、絶対彼女的には俺がいないほうが良いよね…?
何度目かの「ね、秋さん」という片瀬の言葉に、小春ちゃんが口を開いた。
「あの、貴方っていつまで冬馬くんとルームシェアするつもりですか?」
と訊かれて、「え?」と声を漏らした。
確かに、俺は『片瀬とルームシェアをしている三上です』と自己紹介したけど、いつまでと言われると…、何と答えていいか分からない。
俺が詰まってしまったのに痺れを切らしたのか
「見た感じ、私のお父さんとあまり変わらないご年齢に見えますけど…、冬馬くんが高給取りだからって集 るのは辞めてください」
ときっぱりと言った。
「え?ええっと…、集るっていうか…」
と困惑していると片瀬が「小春ちゃん」と厳しい声を出した。
「確かにちゃんと紹介しなかった俺も悪いけど、
秋さんは俺の番だよ。悪く言うなら許さない」
すると、小春ちゃんの顔がみるみる赤くなった。
これはたぶん…、怒りだ。
「なんで冬馬くんがこんなおじさんと!?
冬馬くん、30歳まで結婚しなかったら小春と結婚してくれるって言ったじゃん!!
番持ちと結婚なんて嫌!!」
俺はポカンと口を開いた。
え、なにその約束…、片瀬最低!
俺はキッと片瀬を睨んだ。
小春ちゃんを見てオロオロしていた奴は、俺の視線に気づくと、さらに顔を青くした。
「ち、違う!違いますって!!
小春ちゃんとの約束は、彼女が小学生になる前の話です!
俺は秋さんと結婚しますから!!」
その瞬間、小春ちゃんが「ひどい~~~!!!」と泣き出した。
土曜日ののどかな午前中を過ごすはずだったのに…、今この部屋は阿鼻叫喚の地獄だ。
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