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62 逆プロポーズ?:追記
料理は色とりどりで、何もかもが美味しかった。
こんなご飯食べること滅多にないから、俺はいちいち感動していた。
「片瀬!カニ!カニが入ってる!!!」
俺は鍋からカニを取り出して、片瀬に見せる。
「秋さん、カニ好きなんですね。
今度、うちでもだしますね」
「え?」
「俺も秋さんの好物を出したいです」
「あ、ああ」
家で食べるカニ料理って何?
俺はこいつがどんな姿でカニを食卓に並べるのかの想像がつかなくて首を傾げた。
「気持ちは有難いけど、毎日食うなら普段のご飯のほうがいいな」
と、俺が言うと「秋さん」と片瀬が目を潤ませた。
なんだかんだで、美味い飯が並ぶと雑念とか吹き飛ぶもんだな…
このまま、平和に眠れれば良いんだけど…
仲居さんにおすすめされて、お布団の準備をしている間に旅館付近の海辺を散歩する。
観光地ってだけあって、景色は綺麗で静かではあるけど、人はポツポツといる。
おそらく俺らと同じく、この辺りに泊まりにきている観光客だろう。
海を見ながら歩いていると片瀬が手を握ってきた。
「おい、人が…」
「誰も気にしてないですよ。
それに人目は気にしないんですよね?」
「…ぐ」
痛いところを突かれて黙り込むと、片瀬が俺の手を引いて歩き始める。
風呂上がりから旅館の浴衣を着ているけど、俺は着られているのに片瀬は着こなしている。
浴衣姿の片瀬に、悔しいけど見惚れた。
「どうかしました?
あ、歩き疲れました?」
「いや…、本当に顔がいいと思って」
「えっ…」
と、片瀬は驚いた後に満面の笑みになった。
「秋さんに褒められた」と嬉しそうにしている。
顔がいいなんて、今日まで死ぬほど言われただろうに。
「秋さんも浴衣似合ってます」
とろけるような笑みで言われて、俺はどきりとしたが、冷静に考えて片瀬と並んだらちんちくりんであることに思い至る。
「はいはい」と俺はテキトーに返事する。
こいつは俺が何しても褒めるんだから、騙されるわけにはいかない。
「本当なのに」
「センス独特だよな」
「ええー?まあでも、誰も秋さんを見つけられなければいいなって思ってます」
よくもまあ、歯の浮くようなセリフをポンポンと言えるな。
「あのさ…、結婚の話なんだけどさ」
「…、は、はい」
「いや…、うん…、うん!!」
言うかどうか悩んで、そんな自分に喝を入れるように急に大きい声を出した俺に、片瀬がびっくりする。
「あ、悪い。
その、結婚したいなって思った。片瀬と」
「…は」
あれ?
泣いて喜ぶかと思ったけど、片瀬は固まっている。
何も喋らないし。
もしかして…、気が変わって結婚なんてするつもりなかったとか!?
いや、自分には分不相応だと思ってはいたけど、8割型OKして貰えると思ってたからショックだ。
「あー、ごめん。うそうそ。
今の忘れ…「秋さん!!!」」
俺のでかい声を遥かに超えるデカい声で片瀬が名前を呼んだ。
「は、はい」と俺は気負されて答えた。
「俺と結婚してくれるんですか!?
え、え、ええ、でもどうしよう!
ちゃんとプロポーズの準備してないです!
指輪もまだ…」
なんだそんなことで渋ったのかと力が抜けた。
こっちは本当にフラれると思って、心配したんだからな。
「いいよ、そんなのは。
断られるかと思ったじゃねぇか!」
と俺が悪態をつくと
「断るわけないじゃないですか!」
と片瀬が吠えた。
冷静に考えて結構大きい声で外で話してしまった。
しかも手は繋がれている。
夜で良かった…
「そろそろ部屋戻るか?」
「…そうですね。
戻ったらちゃんと話しましょうね」
「…、そうだな」
力強く手を握られて、俺は撤回できないなと思った。
でも、ずっと言おうとしていたことだ。
勇気を出して言えた自分を今日くらいは褒めよう。
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