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第48話 離れて眠る夜6

 4ー6 別れ  「本当にすまない、ルルシア。お前も私の子であるのに変わりないのに、こんなことを頼むなんてどうか、愚か者と罵ってくれてもかまわん」  魔王のおっさんは、僕に告げた。  「どうか、アーキライトのことを諦めて2度と奴の前に現れないでくれ。頼む、ルルシア」  僕は、頭がぐわんぐわんして。  目眩に思わずその場に座り込んだ。  魔王のおっさんは、僕の前にしゃがみこむと僕に皮の袋に入った何かを手渡した。  「これは、『竜の目玉』だ。どんな病にでもきくし、死者をも甦らせる力を持つ。売ればお前が一生遊んで暮らせるだけの金になるだろう」  魔王のおっさんの言葉に僕は、打ちのめされていた。  これまで、いろいろあったにしてもおっさんは、僕の父さんなんだと思っていたのに。  魔王のおっさんは、アーキライトのために平気で僕を切り捨てようとしている。  僕は、俯くとくぐもった声できいた。  「母さんは?」  「リリアは、何も知らない」  魔王のおっさんは、淡々と話した。  「こんなことを頼んでいえることじゃないかもしれないが、リリアのことは、私が命にかけても守り抜く。だから・・心配しないでもいい」  魔王のおっさんは、僕を見つめていた目をそらした。  「すまない、ルルシア。許してくれ」  僕は、こくん、と頷くとかすれた声でなんとか言った。  「わかった・・」  僕は、魔王のおっさんの胸ぐらを掴むとおっさんに告げた。  「その代わり、母さんを頼む!母さんを不幸にしたら絶対に許さないからな!」  魔王のおっさんは、僕の目を見つめて頷いた。  僕は、おっさんの胸ぐらを掴む手を離した。  「少し、時間をくれ」  魔王のおっさんは、すっと立ち上がると部屋から出ていった。去り際におっさんは、小さな声で僕に言った。  「すまない」  悔しくて涙が頬を流れ落ちる。  僕は、いつしか嗚咽していた。  僕は。  家族を失った。  優しい母さん。  ちょっと嫌な奴だけど、憎めない義父。  何を考えているかわからないけど、美しくて、憧れていた兄さん。  全てを失ったんだ。  僕は、泣きながら立ち上がると下履きとズボンを身に付けた。  そして、小さな皮の鞄に荷物を積めてそして、部屋から出た。  扉を閉める前に僕は、振り向いた。  子供の頃から暮らしたこの農場を去るのは辛くて、悲しくて。  だけど。  魔王のおっさんのいうことも一理あるのだ。  アーキライトに僕の力が悪い影響を与えるかもしれないのなら、僕は、それを防ぎたい。  僕は、アーキライトを守りたかった。  だって。  アーキライトは、僕の初恋だから。  僕は、アーキライトが好きで。  好きで。  大好きで。  僕は、頬を流れる涙をそっと拭うと、その場から転移の術で姿を消した。  

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