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第4話

 事務所から歩いて十分のところに寮がある。寮と言っても見た目は普通のマンションで、警備員やコンセルジュが二十四時間常駐しており、セキュリティは万全だ。駐車場も地下にあるのでマスコミ対策もしっかりしている。  寮には事務所の新人や若手が多く住んでいて、例にもれず天根も寮暮らしだ。  天根は慣れた様子でカードキーをかざすとエレベーターが作動した。その六階に停まる。  長い廊下を歩き、突き当りの部屋のドアに再びルームキーをかざすとガチャと施錠が解除された。  「文句言うなよ」  「どうして?」  問いかけると天根はぶすっとして下唇を突き出した。なにか見られたくないものがあるのだろうか。  扉を大きく広げてくれたのでなかを覗くとごみ集積場のようなすえた匂いがする。  玄関には靴が散乱して入れるスペースがない。けれど転がっている靴は高級ブランドの革靴やヴィンテージのスニーカーばかりだ。呆気に取られている晶をよそに天根は高級靴たちを乱暴に脚で寄せながらなかに入っていく。  真っ直ぐ廊下を進むとリビングがあるようだが、そこに行くまでもごみ袋や洋服、ペットボトルやダンボールなどが散乱している。  あまりの酷さに引いた。とてもじゃないが人間が住む場所じゃない。  できることなら回れ右をして帰りたいくらいだが、田貝と約束した手前、逃げ帰るわけにもいかなかった。  覚悟を決めてごみを避けながらリビングに行くと、ここもまた廊下と同じように食べ終わった弁当や惣菜のパック、空き缶などがこれでもかというほど散らかっている。  もうこれはあれだ。ごみ屋敷。いまをときめく天根がごみと一緒に暮らしているなんて誰も思わないだろう。ごみ山の中央に立っていてもあまりにも不釣り合いで、こういう撮影セットなんじゃないかと思わせられる。  「すごいな……」  「文句言うなって言ったろ」  「ハウスキーパーとか探せばいいのに」  「……時間ねぇんだよ」  「事務所に頼めば?」  「殺人犯がそうやすやすと人を入れるわけないだろ」  天根の演技が邪魔で本心が見えづらいが、どうやら他人を家に入れたくなく掃除をするほどの余裕はないと言うことだろうか。 確かにハウスキーパーに守秘義務があるといえ人間だからうっかりこぼしてしまうかもしれない。イケメン俳優と肩書のある天根がごみと寝食を共にしているなんて好感度がだだ下がりだ。  その点、晶は同業者だから安心ということなのだろうか。  「寝る。あとは勝手にしろ」   天根はそう言い残すとリビング横の部屋に姿を消した。ちらりと見えたその横顔は青白く、疲労の色を滲ませている。  田貝から渡された会社用スマートフォンでスケジュールアプリを立ち上げると二年先まで予定が埋まっていて休日ももちろんない。  さすが人気俳優。部屋の汚さは天根の時間のなさを物語っているのだろう。けれどこのままだといつか体調を崩し、仕事に影響がでるかもしれない。  「仕方がない。やるか」  足元にあったペットボトルを洗い、惣菜パックを入れたビニール袋やダンボールを潰して束ねたものをごみ集積所に捨てに行ったりと日付が変わるまで部屋の掃除に勤しんだ。

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