12 / 61
第12話
「ちょっと無理あったよな」
役が抜けると途端に恥ずかしくなる。顔が熱い。見られないようにすぐに部屋を出ようとすると長い腕に腰を絡め取られてしまった。突然のことで指先も肘もピンと伸ばしたまま固まる。
「普段の晶さんとキリカンって全然違いますね」
「それ嫌味?」
「違いますよ」
振り返ると天根はとろけるような笑顔を浮かべた。
表情筋に力が入っていない。最近見慣れた天根の通常だとすぐに気がついたが、どうしてチャラ男が抜けたのだろうか。
天根はさらに腕に力をいれた。すっぽりと腕のなかに閉じ込められてしまい身動きが取れない。
「ここにいて、ください」
懇願するような声音なので出て行くのが躊躇われる。置いて行ったら罪悪感で眠れなくなりそうだ。
(でもどうして役が抜けたのだろう)
キリカンを演じただろうか。たったそれだけで?それほどキリカンは天根にとって大きな存在なのだろうか。
逡巡していると天根はうとうとし始めている。
「抜けたら…… 眠くなって、きました…… 晶さ、も…… いっしょ…… に」
「お、おい!」
天根は目を瞑り、そのまま規則的な寝息をたて始めて本当に眠ってしまった。熱すぎる体温にどきまぎしてしまう。
こんな風に誰かに抱き締めてもらうのはいつぶりだろうか。子どものとき母親によく抱っこをせがんでいたが、それとは全然違う。体温も、匂いも、骨格も男のそれで、同性に抱き締められているのに嫌悪感はない。
そう、これはまるで弟に甘えられている感覚と似ている。やっと懐いてくれたんだというような誇らしい気持ち。
天根の体温に包まれていると段々と眠気がきた。明日の予定を確認したり、準備をしなきゃいけないとわかっているのに心地よい温もりを手放せない。
瞼が重たくなり始め、現実と夢を行ったり来たりしながらしだいに深い眠りについた。
ともだちにシェアしよう!