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第28話
色気というものがわかってきた気がする。
心の内側から「自分は魅力的だ」という気持ちを強くさせると身体がしなやかに腰を揺らす。
涙を溜め、少しだけ目を細める。頬を赤くさせて唇を吊り上げれば魅惑的な栗山になる。
何度も撮り直したシーンは今日一発OKを貰い、その後別のスタジオに移動した。
大学卒業後、栗山はバーテンダーとして働き、朝香を忘れるため誰彼構わず男を惑わし、その日限りの夜を過ごす。
もちろん上半身裸で数人の男とベッドで抱き合うシーンがある。
好きではない男に身体を触れられると泥水に沈められたように汚れた気がした。こんな場面見られたくないのに天根は律儀にスタジオまで見学に来る。しかもスタジオの正面に立ち、じっと見つめてくるのだ。
その瞳が殺人鬼を思い起こすような殺意を含んでいて、背中にぞくぞくとした快感が駆けのぼってくる。
見られたくないと思いながら見せつけるように腰を振った。甘い喘ぎ声を漏らした。我ながら矛盾している。でも栗山はそういう男なのだ。
朝香がやきもちを焼いているのが嬉しくて堪らない。もっと狂わせるほど嫉妬させたくて、天根を見ながら違う男に抱かれ続けた。
「カット! 南雲くん、最高だよ!」
「ありがとうございます」
「昨日とは雲泥の差だね。恋人でもできた?」
「まさか。撮影に集中してるだけです」
「それならよかった。来週一話目放送されるから、それまで問題起こさないでよ」
監督に冗談っぽく言われたが本音も入っているのだろう。昨日まで色気がないと散々言われていたのに、いまは別人のように妖艶な演技をしているのだから無理もない。
監督や周りの反応に手応えを感じていた。
ベッドから起き上がるとスタッフにバスローブを掛けてもらい、ふらふらしながら立ち上がった。いくら演技とはいえ精神力をかなり使う。
長い腕が伸びてきて、腰を支えてもらった。体温が触れるだけで肌が泡立つ。
演技中は平気だったのに終わった途端、後ろめたさが襲いかかってきてまともに顔が見られない。朝香を忘れるためとはいえ、毎晩違う男に抱かれる栗山の気持ちは想像できるが共感はできなさそうだ。
「ごめん、大丈夫だから」
「シャワー室行こう」
相手役を目の前にしてシャワーを浴びに行くというのも失礼な話だが、触れられた肌の感触を早く流したい気持ちが勝る。
小さく頷くと天根に抱えられるようにしてシャワー室へと連れてもらった。
コルクを捻ってお湯を頭からかぶると醜い感情も嫉妬も全部洗い流してくれるような気がした。
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