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第34話
初回放送は共演者、スタッフみんなで観ることになりスタジオの会議室に集まった。夜十一時放送ということもあり、清のような学生は来ていないがそれでも三十人以上いる。
楓からは「絶対いい作品だわ」と太鼓判を押されたが、緊張と期待がごちゃごちゃ合わさってよくわからない心地でテレビ画面を見つめていた。
CMがぱっと切り変わる。
晶が学校の廊下を歩く後ろ姿とナレーションから始まり、オープニングへと進む。
世間にどう評価されるだろうか。新人スタッフがスマートフォンとテレビを交互に観て視聴者の反応をリアルタイムにチェックしてくれている。
「どう転ぶかな?」
「間違いなく名作」
「すごい自信だな」
「もしかして不安になりながらやってたの?」
「まさか」
「なら問題ないよ」
自信をもった言葉とは裏返しに天根の表情はどこかぎこちない。きっと朝香の仮面が邪魔をしているせいで本音が話せないのだ。本当は不安で不安で仕方がないのだろう。
祈るように指を組んでいる天根の手に自分のものを重ねて、最後まで見守った。
ドラマが終わると会議室内の空気はふっと軽くなり、スタッフ共演者含め満足げな顔をしている。
「『それでも、キミが』トレンド入りしてます!」
スタッフの声にみんな我先にとスマートフォンを覗き込んだ。トレンド一位にドラマのタイトル、次に晶の名前があった。
「南雲さんの評価も高いですよ! ほらこれ見てください」
スタッフからスマートフォンを受け取り、画面を見る。そこにはタグ付けされた自分の名前があり、感想が一覧で見られるようになっていた。
『キリカンのイメージと全然違う』
『これは期待大』
なかには原作ファンや天根のファンからの心無い言葉もあったが、それをかき消してくれるくらいポジディブな言葉が多い。
けれど下へスクロールさせていくとやはりキリカンのことを書かれていることが増えてくる。
『キリカンが先生とかやばい』
『顔が変わらなすぎて教師というよりキリカン』
『十年ぶりの復帰がBLって落ちぶれたな』
塞がっていない傷をえぐるような一言もあり、東の言葉がまだ残っている心には深くしみる。
でもそれはおくびにも出さないで笑顔をつくった。
スタッフや他の共演者が喜んでいる空気に水を差したくない。
隣を見ると天根は柔らかく微笑んでくれていた。
「やったな、天根!」
「当然だろ」
「このまま最終回まで気を抜かずに頑張ろうな」
「もちろん」
天根に抱きしめられて、腕の強さに驚いた。シャツ一枚越しに皮膚や筋肉、骨格の形まで肌にささってきてどきまぎしてしまう。腕を解こうにも天根の力のほうが強い。
「……よかった」
囁く声は周りの音にかき消されてしまいそうなほど小さいのにしっかりと届いた。
それからドラマの注目度が上がっていくのにつれて、連日テレビやネットニュースで流れるようになった。
事務所の電話も鳴り止まないらしく、問い合わせフォームはパンクし、サイトもサーバーが落ちしてしまうほどらしい。
まさかここまで反響があるとは予想していなかった。
いままで外を歩けば「キリカンだ」と後ろ指をさされ、心無い言葉を浴びせられることも多く、殻に閉じこもり傷つけられないようにしていた。
けれど殻を破り蛹へと進化した晶を世間は認めてくれている。
再びスポットライトの下に歩けるようになったのは紛れもない天根のお陰だ。
天根の演技に対する姿勢。憑依。それらすべてが俳優魂に響いて再び立ち上がる決心をさせてくれた。
同時に誰もが認める才能に嫉妬する。恵まれた容姿と体躯は晶にはどう足掻いても手に入れられない。
絶対に負けたくないと燃えていた。
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